輝く樹木

第2章 第9話

「豪華なパソコンのセットだね。相当したんじゃない?」
秀介は俊治の部屋の中を珍しそうに眺めながら言った。
「父さんの後を将来僕が引き継いていくという条件で、なんでも好きなものを買ってくれるんだ」
「君のお父さんは都議会議員だよね。都議会議員ってそんなに儲かるのかい」
「僕にはよくわからないけど、副収入が可成りあるみたいだよ」
「君も将来父親の後を継いで都議会議員になるだろう。お父さんによく聞いておいた方がいいんじゃないか」
「そう、いろいろ聞くと喜ぶだろうけど、最終的には国会議員になってもらいたようだけど」
「国会議員か凄いね」
「たぶん無理だと思うけど。父親がなりたくてもなれなかったんだから。いまさら自分の子供の代でなってもらおうなんてね」
「『アナザーワールド』って面白いの? どんなゲームなの?」
「面白いよ。仮想現実ゲームといって、現実世界とは別の仮想の世界がネット上に作られているんだ。この世界は仮想現実の世界といっても可成りリアルに作られているんだ。このディスプレイ程の解像度とこのパソコン程の処理能力で、そのリアルさが物凄い迫力で迫ってくるんだ」
「君は政治家になるよりも何かパソコン関係の仕事についたほうが向いているんじゃないか。本当はそういう仕事に将来就きたいと思っているんじゃないかい?」
「本音を言うと政治家には興味はないんだ。でもそれを言ったら怒るだろうな。小遣いはもう貰えないだろうな」
「君の家はこんなに裕福なのに何故私立中学を受けなかったんだい?」
「父親のコネで入れそうな学校がひとつあったみたいだけど、中学のうちに高校の内容まで勉強するなんて僕には無理だと思ったんだ」
「でも高校受験があるよな。どうするんだ?」
「父親のコネで入れそうな私立の高校がひとつあるみたいなんだ。それもそこの特進科に。そこで勉強させれば、有名私大に入学させることが出来ると父親は思っているみたい」
「政治家ってすごいね」
「斉川君はどうして私立中学に行かなかったの?」
「実は、私立中学を4校受けたけど全部不合格だったんだ」
「斉川君みたい頭のいい生徒が不合格だなんてなんかの間違いじゃないの」
「いやすごい倍率だからね。僕は自分のことを過信していたから。ちょっとした油断があったと思う」
「君のお父さんは帝南総合病院の医院長でしょう。君も将来お医者さんになるんでしょう? 高校受験すごいところを受けるんでしょう?」
「私立の進学校も受けるけど、第一志望は国公立のトップ校になると思う」
「国公立校になると内申書が重要だと聞いたけど?」
「そう、だから学年で一番にならなければならないんだ。でも僕よりも出来る生徒が公立中学にいるとは思わなかったよ」
「藤村君のことかい?」
「彼は出来るよ。彼のことを追い越すことは無理かも知れないな。彼は何故私立中学に行かなかったのかな?」
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