輝く樹木
第2章 第10話
朝のショートホームルームが終わった後、担任教師は3名の生徒に職員室に来るように言った。悠人と守と武瑠であった。俊治は3人が職員室に呼ばれた理由が教材費のことであることは間違いないと思った。
帰りのショートホームルームの後、昇降口で悠人と守と武瑠が深刻そうに話しているのを俊治は見かけた。俊治は3人のところに近づいていき話しかけた。
「最近3人でよく話しているところを見かけるけど、何か共通に遊んでいるゲームでもあって、その話しをしているの?」
「いやゲームの話はしていないよ」
「いやごめん、てっきりゲームの話しをしていると思って。最近僕はハマっているゲームがあって、誰かが話しているのを見るとつい、ゲームの話しをしてるのかなあと思ってしまうんだ。もう病気かな、僕は。 『アナザーワールド』というゲームを知っているかい?」
「仮想現実世界のゲームでしょう。高画質のディスプレイと高機能のパソコンと高速のネット環境がないと楽しめないものだよね」武瑠が言った。
「僕の部屋に最近買ったばかりの高性能のディスプレイとパソコンがあるんだけど、『アナザーワールド』のなかにあるアトラクションなんか、超リアルですごく楽しめるよ。そのアトラクションだけプレイするならたいして時間はかからないから、もしよかったら皆これから僕の家に来ない?」
「いやマシーンによってゲームがこんなに迫力あるものになるんだね。驚いたよ」守が言った。
「僕の家にもパソコンがあるけど古澤君のパソコンに比べたらおもちゃのようなものだな」
武瑠が言った。
「古澤君のお父さんは都議会議員って聞いたけど。都議会議員ってお金になるんだね」
悠人が言った。
「そうすると古澤君も将来は都議会議員になるの?」守が言った。
「父親からいつもそう言われているからね。ところで君たち、3人で昇降口で深刻そうに話していたけど何の話しをしていたの?」
「実は僕たちはみんな家が大変な状況にあって教材費が払えないんだ」悠人が言った。
「そう、それで3人で宮部先生のところへ言って相談にのってもらおうかということを話していたんだ」守が言った。
「それじゃ、その教材費僕が出してあげようか?」俊治が言った。
「え、そんな大金なぜもっているの?」武瑠が言った。
「僕は毎月結構な額の小遣いをもらっているんだ。毎月使い切れなくて貯まった現金が結構あるんだ」
「いつ返せばいいの?」悠人が聞いた。
「返さなくていいよ。あげるから」俊治が答えた。
「でも僕たちとこんなによく話したのは今日が初めてでしょう。どうしてそんなに親切にしてくれるの」守が言った。
「君たちが自分のせいではなくて、家の事情のために大変な目に遭っているのを知って、何もしないではいれられなくなってしまったんだよ。僕なんかこんな恵まれた環境にいるのに。僕の気が済まないんだよ」
「それでは君からの好意を素直に受け取っていいの?」悠人が言った。
「もちろんだよ。僕と君たちとは親友じゃないか。それじゃ今皆に渡すから受けとってくれる?」
俊治が3人に封筒を渡しながら言った。
「あ、最後にひとつ、たいしたことじゃないんだけど、ちょっとしたお願いがあるんだ。藤村輝夫君のことなんだけど」俊治が言った。
「あの学年トップの?」武瑠が言った。
「藤村くんがどうかしたの?」守が言った。
「藤村君っていつも一人でいるでしょう」俊治が言った。
「そういえば、ひとりでいることが多いね」悠人が言った。
「友だちがいないのかな? それなら友達になってあげてもいいとおもうけど」
武瑠が言った。
「僕も友だちになってもいいと思うけど。でも藤村君は頭が良すぎて僕には近寄りがたいんだよね。どういう話題で友だちになったらいいか分からないんだ」悠人が言った。
「僕も本当のことを言うと清水君と同じ考えなんだ。頭が良すぎる子ってどういう風に話しかけたらいいのか分からないんだ。変なこと言うと馬鹿にされそうで」守が言った。
「僕もそのことが心配だったんだ。僕は勉強に関しては劣等感が強いからな」
武瑠が言った。
「小学校で彼と同じクラスだった子に聞いたんだけど。藤村君って結構冗談が分かる子みたいなんだ。だからちょっとからかってやると打ち解けてすぐ友だちになれるって。今度バスで行く写生会があるだろう。そのとき間違いなく藤村君は一人離れて写生をしているだろうから三人でちょっとからかってあげてよ。いきなり後ろから小突くとか。彼の画用紙にちょっと鉛筆で落書きするとか」俊治が言った。
「そんな、小突いたり、落書きしたりしていいの?」守が言った。
「少々手荒くやらないと彼は冗談と受け取らないよ。彼は変わっているし、そういうタイプなんだから」
3人が帰った後、俊治は彼等と交わした会話の内容について考えを巡らしていた。自分はなんという嘘つきなんだろうという少々の良心の呵責を覚えたが、すぐに頭の中からその思いを消し去ってしまった。藤村輝夫は俊治が三人に説明したような生徒では決してない。彼は繊細な精神の持ち主で、普通の人には理解できないほど心の折れやすい生徒である。ちょっとした悪ふざけを難なくあしらうことの出来る者ではけっしてない。彼と小学校で同じクラスだった生徒から話しを聞いたことは本当であったが、その内容は彼等に話したこととは全く違っていたのである。彼は人とコミュニーケーションをとることは普通に出来る生徒である。しかし異常に神経質な生徒である。自分に向けられた悪意のない言動でも悪くとることがある。彼は非常に勉強が出来るにもかかわらず過度にセルフイメージが低い生徒である。写生会で3人が何の疑問もなく俊治が言ったようにしたならば、輝夫はいじめだと思うだろう。彼は翌日から学校に来なくなるかも知れない。長期欠席が不登校になり、転校に至るかも知れない。秀介は学年順位が1位になり喜ぶだろう。もちろんそれが輝夫がいなくなった故であることを秀介は分かっているが、単純に結果として自分が1位になったことを喜ぶだろう。やがて秀介は輝夫が不登校になった理由について何か知らないか俊治に聞く時が来るだろう。その時、俊治は自分がこのために入念に計画したことを説明するつもりでいた。秀介はそのことを聞いて俊治に感謝するだろう。秀介は俊治にとって最も親しくなりたいと思っている生徒であった。彼は将来帝南総合病院の医院長になるだろう。政治家に将来なろうと思っている俊治にとって力強い支援者になることは確実であった。
帰りのショートホームルームの後、昇降口で悠人と守と武瑠が深刻そうに話しているのを俊治は見かけた。俊治は3人のところに近づいていき話しかけた。
「最近3人でよく話しているところを見かけるけど、何か共通に遊んでいるゲームでもあって、その話しをしているの?」
「いやゲームの話はしていないよ」
「いやごめん、てっきりゲームの話しをしていると思って。最近僕はハマっているゲームがあって、誰かが話しているのを見るとつい、ゲームの話しをしてるのかなあと思ってしまうんだ。もう病気かな、僕は。 『アナザーワールド』というゲームを知っているかい?」
「仮想現実世界のゲームでしょう。高画質のディスプレイと高機能のパソコンと高速のネット環境がないと楽しめないものだよね」武瑠が言った。
「僕の部屋に最近買ったばかりの高性能のディスプレイとパソコンがあるんだけど、『アナザーワールド』のなかにあるアトラクションなんか、超リアルですごく楽しめるよ。そのアトラクションだけプレイするならたいして時間はかからないから、もしよかったら皆これから僕の家に来ない?」
「いやマシーンによってゲームがこんなに迫力あるものになるんだね。驚いたよ」守が言った。
「僕の家にもパソコンがあるけど古澤君のパソコンに比べたらおもちゃのようなものだな」
武瑠が言った。
「古澤君のお父さんは都議会議員って聞いたけど。都議会議員ってお金になるんだね」
悠人が言った。
「そうすると古澤君も将来は都議会議員になるの?」守が言った。
「父親からいつもそう言われているからね。ところで君たち、3人で昇降口で深刻そうに話していたけど何の話しをしていたの?」
「実は僕たちはみんな家が大変な状況にあって教材費が払えないんだ」悠人が言った。
「そう、それで3人で宮部先生のところへ言って相談にのってもらおうかということを話していたんだ」守が言った。
「それじゃ、その教材費僕が出してあげようか?」俊治が言った。
「え、そんな大金なぜもっているの?」武瑠が言った。
「僕は毎月結構な額の小遣いをもらっているんだ。毎月使い切れなくて貯まった現金が結構あるんだ」
「いつ返せばいいの?」悠人が聞いた。
「返さなくていいよ。あげるから」俊治が答えた。
「でも僕たちとこんなによく話したのは今日が初めてでしょう。どうしてそんなに親切にしてくれるの」守が言った。
「君たちが自分のせいではなくて、家の事情のために大変な目に遭っているのを知って、何もしないではいれられなくなってしまったんだよ。僕なんかこんな恵まれた環境にいるのに。僕の気が済まないんだよ」
「それでは君からの好意を素直に受け取っていいの?」悠人が言った。
「もちろんだよ。僕と君たちとは親友じゃないか。それじゃ今皆に渡すから受けとってくれる?」
俊治が3人に封筒を渡しながら言った。
「あ、最後にひとつ、たいしたことじゃないんだけど、ちょっとしたお願いがあるんだ。藤村輝夫君のことなんだけど」俊治が言った。
「あの学年トップの?」武瑠が言った。
「藤村くんがどうかしたの?」守が言った。
「藤村君っていつも一人でいるでしょう」俊治が言った。
「そういえば、ひとりでいることが多いね」悠人が言った。
「友だちがいないのかな? それなら友達になってあげてもいいとおもうけど」
武瑠が言った。
「僕も友だちになってもいいと思うけど。でも藤村君は頭が良すぎて僕には近寄りがたいんだよね。どういう話題で友だちになったらいいか分からないんだ」悠人が言った。
「僕も本当のことを言うと清水君と同じ考えなんだ。頭が良すぎる子ってどういう風に話しかけたらいいのか分からないんだ。変なこと言うと馬鹿にされそうで」守が言った。
「僕もそのことが心配だったんだ。僕は勉強に関しては劣等感が強いからな」
武瑠が言った。
「小学校で彼と同じクラスだった子に聞いたんだけど。藤村君って結構冗談が分かる子みたいなんだ。だからちょっとからかってやると打ち解けてすぐ友だちになれるって。今度バスで行く写生会があるだろう。そのとき間違いなく藤村君は一人離れて写生をしているだろうから三人でちょっとからかってあげてよ。いきなり後ろから小突くとか。彼の画用紙にちょっと鉛筆で落書きするとか」俊治が言った。
「そんな、小突いたり、落書きしたりしていいの?」守が言った。
「少々手荒くやらないと彼は冗談と受け取らないよ。彼は変わっているし、そういうタイプなんだから」
3人が帰った後、俊治は彼等と交わした会話の内容について考えを巡らしていた。自分はなんという嘘つきなんだろうという少々の良心の呵責を覚えたが、すぐに頭の中からその思いを消し去ってしまった。藤村輝夫は俊治が三人に説明したような生徒では決してない。彼は繊細な精神の持ち主で、普通の人には理解できないほど心の折れやすい生徒である。ちょっとした悪ふざけを難なくあしらうことの出来る者ではけっしてない。彼と小学校で同じクラスだった生徒から話しを聞いたことは本当であったが、その内容は彼等に話したこととは全く違っていたのである。彼は人とコミュニーケーションをとることは普通に出来る生徒である。しかし異常に神経質な生徒である。自分に向けられた悪意のない言動でも悪くとることがある。彼は非常に勉強が出来るにもかかわらず過度にセルフイメージが低い生徒である。写生会で3人が何の疑問もなく俊治が言ったようにしたならば、輝夫はいじめだと思うだろう。彼は翌日から学校に来なくなるかも知れない。長期欠席が不登校になり、転校に至るかも知れない。秀介は学年順位が1位になり喜ぶだろう。もちろんそれが輝夫がいなくなった故であることを秀介は分かっているが、単純に結果として自分が1位になったことを喜ぶだろう。やがて秀介は輝夫が不登校になった理由について何か知らないか俊治に聞く時が来るだろう。その時、俊治は自分がこのために入念に計画したことを説明するつもりでいた。秀介はそのことを聞いて俊治に感謝するだろう。秀介は俊治にとって最も親しくなりたいと思っている生徒であった。彼は将来帝南総合病院の医院長になるだろう。政治家に将来なろうと思っている俊治にとって力強い支援者になることは確実であった。