輝く樹木

第3章 第1話

「輝夫の最近の様子を見て随分変わってきたと思わないか」
数学と理科の教科書類をまとめながら真樹夫が言った。
「そうだわね、あれほど異常に神経質だったのに驚くくらい普通になってきた気がするわ」
国語と社会のプリント類をまとめながら萌子が言った。
「住む場所が変わって、学ぶ場所が学校ではなく自宅になって、教師が両親になったことは可成り大きな環境の変化かも知れないが、それで人の性格まで変わるのだろうか?」
「神経質にみえるというのは人との関係で見えるものでしょう。神経質な性格は変えることはできないとしても、人に対してそのような性質を見せないということは出来るんじゃないかしら。輝夫の作文を読んでみると、繊細さというものがなくなったどころか、さらに強烈になってきたような気がするわ」
「そうすると神経質であることは変わっていないけど、それをカムフラージュできるようになってきたというのかね」
「輝夫は神経過敏でちょっとしたことにでも過度に反応するところがあったわ。それで成績がいいのにセルフイメージが低いでしょう。相手のちょっと普通と違う言動をマイナスに受け取るのね。だからあの三人のちょっとした悪ふざけをいじめと感じたんだわ。でもその三人は単に友だちになろうとしてしたことでしょう。悪意があったのはあのリーダーだったわけでしょう。三人を利用していたんでしょう」
「頭を小突いた、といっても本当に軽く触れるような感じで、自分たちが来たことを知らせるような合図に過ぎなかった訳だろ。輝夫の絵に落書きしたといっても画用紙の隅の空白部分に鉛筆で薄く「友だちになろう」と書いただけだろ。問題はリーダー格といわれた政治家の息子か?」
「結局実際はリーダーといわれるほどの大物でもなかったんですけど。写生会の数日前から輝夫は強烈な視線を感じるようになったの。その強烈な視線を感じる方をさり気なく見ると、その生徒が輝夫のことをじっと睨みつけているのがわかったの。そして、写生会の前日今まで一度も話したことがないのにその生徒は輝夫に近づいてきて『お前のことを嫌っている奴が3人いて、明日お前のところに近づいて小突いたり、落書きするかもしれないよ。気をつけな』と言ったんだわ」
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