さよならシンデレラ
────なんて、この腹立つスマホをミオくんに預けるなんて気はサラサラなくて。
顔は知らない。
見たこともない。
知っているのは名前と──声だけ。
それなのに、この人だと思った。
雰囲気が、他の人とは違うから。
友達がいない、一人ぼっちの男。
見つけたのは偶然だった。図書室で見た事があると菜乃花が言っていたから、見に来ただけ。
窓際の椅子に座り、机で頬杖をつきながら──彼はいた。
濃いめのグレーアッシュ…そんな髪をしている男はスマホをさわっていて。
この人が瀬戸流風だと思ったのは、この髪色のせいかもしれない。
だって、ほとんどの人は、黒だから。
──…小柄。真耶やミオくんとは違い、小柄だと思ったのは多分、女の子のように細身だったから。
肌も白く、窓際に座っているっていうのに、透明感のある色をしていて。顔を下に向けているのにそこから見える長いまつ毛は本当に女の子のようだった。
──彼の、目の前に座った私は、「あの、」と声をかけてみた。
ス……っと、彼の瞳が向けられる。
丸々とした二重の瞳なのに、怪訝を隠せていないその瞳は私を睨んでいた。
「………あ?」
と、小さな唇から出た声はとっても低く。
その声を聞いて、名前も聞いていないくせに確信を得た。
女の子よりも、可愛い顔をしている男…。
ちょっと想定外。想定外なのに、信じてる自分がいて。
こんなにも可愛い顔をしている男が、真耶に向かって窓が割れるほどスマホを投げたのか。
「私、井上瞳。瀬戸流風くんであってる?」
さっきよりも一段と、不機嫌そうに眉を寄せた男は「……誰だよてめぇ」と口を開く。
やっぱり、私の予想は正しかったらしく。
「この前、瀬戸くんのスマホ拾ったの。受け取ってくれた?」
軽く笑いかければ、少しだけ警戒心をといたのか、瀬戸流風は「……ああ…あれか」と、目を細めた。
「……で、何? まさか礼で金でも渡せって?」
だけど怪訝さは無くならず…。
お金?
どうしてここでお金が出てくるか分からないけど、私は「違うよ」と首を横に振った。
「……真耶って人がね、絡んできたの。私があなたに気があるんじゃないかって。そんなの、全くないのにね」
クスクスと笑った私に、一瞬にして怒った顔付きになった男は──女顔なのに女には見えなかった。
「…真耶って人と、あなたの仲の悪さは知ってる。噂も流れてるし…」
「……あいつ、あんたを巻き込んでるってこと?」
「うん、まあ、簡単に言えば」
「…」
「…だからちょっと、あなたから真耶に言ってほしくて」
「……なんで俺が? あんたが勝手に拾っただけだろ?あんなの────」
「もう話したくないの、あんなやつと」
「……」
「────…人の人生を狂わそうとする奴なんか、もう関わりたくないの」