さよならシンデレラ
────二度と話しかけないでね。
確かにそう言ったはずだった。
結構キツく、冷たく言ってしまったから怒ったのかもしれない。そう思ったけど────…
「あ、いたいた。探したわ」
普通に、面白そうに、私がいる教室に入ってきた性格の悪いマヤは、私の方に向かってそう言った。
やっぱりマヤは問題児らしく。「なんでマヤ?」「お願いだから問題起こさないでよ…」「転校生と知りあい?」とチラチラと声が聞こえて。
マヤは私の座っている席の──前の席に当たり前のように座ると、「なんだっけ、名前」と首を傾げる。
探したって何?
やっぱり怒ってる?
でも顔つき的には怒ってそうではなく。
「…えっと、なに?」
少しだけ眉を寄せながら言えば、マヤは思いついたように「あ、そうだわ」と笑った。
「おめめちゃん。ミオに言われてたよな?」
……おめめ?
え…?
名前のこと?
おめめじゃなくて、瞳なんだけどなぁ。
「…瞳です、」
「瞳?」
「はい」
「なんだおめめじゃねぇんだ」
クスクスと笑うマヤは、意地悪く顔を傾けた。
「ごめんね?」
と、心がこもってそうにない謝罪を言うと、スマホを取り出した。
「番号教えて」
「え?」
「ん?」
「え、…なんで番号?」
「なんでって知りたいから? 知りたくなかったら聞かなくね?」
いや、それは、そうだけど。
この人は二度と話しかけないでねって言ったの、忘れたのかなぁ。
「……教えるのは無理かも」
「は?」
「だって、悪用されそうだもん。あなた性格悪いんでしょ?それに名前だって知らない」
マヤってだけで。
フルネームさえ知らないのに。
私の言葉に、一瞬間を置いて、「ははっ…」と声を出して笑ったマヤという男は、「正解っちゃあ正解」と、取り出していたスマホを机の上に置き。
「俺、サクラギマヤって言うんだけど。んー、ちょっとシャーペン貸して」
マヤは私の机の筆箱から勝手にシャーペンを取り出すと、そのシャーペンで机に文字を書いていく。
そこには〝桜木 真耶〟と書かれていて。
「さっきはほんとごめん。せっかく拾ってくれたのに、感じ悪いこと言っちゃって」
「…」
「スマホ投げてきた時近くにいたって?怪我なかった?」
「……あの、」
「瞳ちゃん彼氏いるの?」
「あの」
「まあいてもどうでもいいんだけど」
「…」
「やっちゃえばいいだけの話だし」
「…」
「俺ね、瞳ちゃんのこと気に入ってさ」
「…」
「今更、流風が好きとか言わないよな?」
よく分からないことを永遠と話す真耶。
「…意味わからない、そもそも流風って人と会ったことないし。気に入ったって、私あなたと今日初対面で…」
「番号教えてくれるまで」
「え?」
「仲良くしような」
にっこりと笑う真耶は、シャーペンも机の上に置く。
────関わらない方がいいよ。
遠くで、菜乃花が見てるのが見えて、菜乃花の言葉を思い出した私は──…