■Love and hate.
右には貴史さん、左には一条さん。
何この複雑な状況…早く回避したい。
「えーっと貴史さん、こちらはさっき話してたSOROの社長の――」
「今俺が質問したよね?」
高圧感を含んだ言の葉は、ジワジワと私の焦燥感を煽っていく。
私を困らせて楽しんでいるのか、はたまたSOROの話をしていたから怒っているのか。
この傍若無人な態度もどうにかしてほしい。
「俺は結城貴史っす」
「結城?…あぁ、あそこのファッション会社の…ね」
私がオドオドしていると貴史さんがさらりと自己紹介をして、一条さんも相槌を打つ。
さっきまでSOROの話をしていたことはなかったことにして話を進めようとしている様子の貴史さん。そうなれば私も乗るしかない。
「珍しいですね、一条さんがパーティーにご参加するなんて」
「そう?ただの気紛れだよ」
よしよし、一条さんが若干馴れ馴れしいとはいえ極普通の会話ができている。
このままこれが続けば怪しまれることもない。
―――そう思った矢先。
「貴史!あちらの社長夫人がお前を見たがっている。来なさい」
「…は?ちょっと待…、」
タイミング良く貴史さんのお父様が貴史さんを無理矢理どこかへ連れて行き、私たちは2人きりになった。
これから貴史さんは機嫌取りのネタに使われるのだろう。
何にせよ危ない状況から免れて良かった。
見ず知らずのどこぞの社長夫人とやらに感謝する。
「………」
ほっとしたのも束の間、隣から送られる私を射抜くような視線が強くなった。
貴史さんがいなくなったせいか当たり前ように素を出し始めている。
「……何でいるんですか…?」
「いちゃおかしい?」
「おかしくはない、ですけど…私の所に来る意味が分かりません」
「君が妙な男と俺の会社の話をしてるから、それだけで十分理由になると思うけど」
そう言いつつワインを口に含み色っぽい唇を自らペロリと舐める一条さんはどう見ても去る気配がない。
それどころかこのカウンターで寛ぎ始めているように思える。
ならばメディアの方々が来る前に私が去るしかないと思い立ち「もうSOROの話はしませんので」と言ってカウンターを離れようとしたのだが、
「どこ行くの?」
呼び止められてしまった。
「……お花を摘みに。」
「そう?じゃあ俺もついていくよ」
え、何その満面の笑顔。