■Love and hate.



あの日の記憶が甦ってくる。


数年前のことなのに凄く最近のことのように感じるのは何故なんだろう。




あの時彼は『親や家系に縛られるのが嫌だ』と言った私に『それなら裏切ろう』と言った。


『こんなパーティーは居心地が悪い』と言った私に『2人で抜け出そう』と言った。


『怖い』と中途半端なことを言った私に『今の君は他人なんて関係のない1人の女の子だよ』と甘い言葉を囁いた。




ただの興味本位だったのに、いつの間にかもう戻れないところまで来ている。



「ずっと…、不思議なことがあるんです」



ダブルベッドに私を押し倒す一条さんは、あの時より少し柔らかい表情で。



「なぁに?」


口元に妖しげな弧を描く。






「……どうしてあの時私に話し掛けたんですか」



最初は並んで立っていただけだった。


その時私は立っている人がSOROの社長だなんて知らなかったし、気にもしなかった。


それは廊下の壁にもたれかかって重い溜め息を吐いた時だ。



『会場の空気合わないでしょ』と私の心情を見透かすように、あろうことか一条さんの方から話し掛けてきたのだ。



昔からの箱入り娘で親の言う通り何の反抗をすることもなく育ってきた私。


ずっと家での不満を胸の内に溜め込んでいて、我慢していて、それに気付いてくれたことが嬉しかったのかもしれない。



私は一条さんと話しているうちに自然と愚痴や本音をさらけ出してしまった。



「さぁ、何でだと思う?」



質問に対して、わざと困らせる言葉を選ぶ少々意地悪な一条さん。





今考えると不思議で仕方ないのだ。


この人は無関係の人には冷酷かつ無慈悲だし、傍にいる女の子が溜め息を吐いたところで話し掛けるはずもない。



それなのにどうして数年前のあの日、私に話し掛けたのか。きっと暇潰しのつもりだったんだろうけど。


今でも一条さんは私との関係を意味もなく保ち続けている。



「もうパーティーには戻らないでおこうよ」


「ちょっ、待ってください!」



ドレスを乱暴に脱がせようとしてきた一条さんの手を制止する。


折角今日貰ったものだというのにぐちゃぐちゃにするわけにはいかない。




「は、何。」


私があまりにも必死に止めてくるのが気にくわなかったのか、無理矢理押さえ付けてくる。






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