■Love and hate.
そんなことを考えながら鉛筆をとった時―――制服のポケットが震えた。
何の飾りも付けていない質素な携帯の画面には、“一条さん”の文字。
噂をすれば何とやら…。メールボックスを開けば、新着メールが1件。
――――――
From:一条さん
Sub:(non title)
今何してる?
――――――
いきなり何なんだろう、この人は。
返信しなかったら後で拗ねるし、適当に返しておこう。
――――――
To:一条さん
Sub:(non title)
部活です
――――――
すると、数秒後にまた返信が。
――――――
From:一条さん
Sub:(non title)
寂しい
――――――
――――――
To:一条さん
Sub:(non title)
知りません
――――――
――――――
From:一条さん
Sub:(non title)
疲れた。癒して。
――――――
あ、これは用もないのに気まぐれでメールしてきてるパターンだ。
部活で忙しかったってことでやっぱり無視しよう…。
携帯をポケットにしまい、どんな絵を描こうかなと想像を膨らませる。
この前は白がテーマだったし、今度は黒で――『ブルルルル…』ポケットの中の携帯が再び震える。
溜め息混じりに携帯を開くと、予想通りそこにはまたもや“一条さん”の表示。
でもさっきと違うのは、それがメールではなく電話ということだ。
私は短く溜め息を吐いてから静かに美術室を出る。真剣に絵を描く野薔薇の邪魔をするわけにはいかない。
放課後のひんやりとした廊下に出た私は、通話ボタンを押した。
「……もしもし」
典型的な電話の挨拶。そんな私に素っ気無さを感じたのか、クスリと笑う一条さんの声音が電話越しに聞こえる。
でもそれはいつもとは違い、少々疲れを孕んでいた。
「……大丈夫ですか?」
一条さんはいつも余裕たっぷりだし、弱っている様子なのは珍しい。
『大丈夫じゃないって言ったら会いに来てくれる?』
「…それはないです」
『冷たいなぁ』
この人本当に大丈夫だろうか。いや頭的な意味ではなく。
「今どこにいるんですか?」
『まいほーむ』
「え……仕事は?」
『まだ全部終わってないけど帰らされちゃった』
帰らされちゃったって…そこまで弱ってるってこと?
普段どんな仕事でも涼しい顔して済ますくせに、今回はそこまでキツかったのだろうか。