■Love and hate.
* * *
「何をしていた?」
低い声が室内に響く。
ああ、私はこの目が苦手だ。
「連絡もせずに門限を破るなら、学校の帰りも迎えを行かせるぞ」
「それは…嫌です」
「なら何をしていたんだ」
時計を気にしなかった私が馬鹿だった。
寝るならせめて、目覚ましをかけてからにするべきだった。
「学校で部活をしていたら、途中で寝てしまって…」
学校は見回りが来るし、嘘臭すぎる気もするけど、さすがに一条さんの家に行ったなんて言えない。
一条さんと面識があることも教えてはいけない。
「こんな時間まで学校にいたのか。寝るなら部屋で寝ろ」
お父さんの冷たい瞳が私を射抜く。
「まぁまぁ、いいじゃないの。栞だって女子高生なんだから」
お母さんがそう言いながらデスクの上に私の晩ご飯を置く。
時刻は夜中の12時半。私だって、ここまで深く眠ってしまうとは思わなかった。
目が覚めたらリビングがすっかり暗くなっていることに気付いた。
隣で寝ている一条さんに書き置きして、急いでこの家までバスで帰ってきた。
「でも、これからは遅くなるなら連絡しなきゃ駄目よ?」
そう言われて私が頷くと、優しく笑うお母さん。
でも、
「お前は甘すぎる。一度するなら何度もするに決まっているだろう」
いつものように私を決め付けるお父さん。
どうしてそんな風にしか考えられないのか疑問に思う。
「もう、あなたは心配しすぎなのよ。栞だって立派な高校生よ?今度から気を付けるならいいじゃない」
お母さんの言葉にも疑問に思う。
私には、お父さんの台詞を“心配”だと捉えることができない。
「うるさい。とにかく明日からは学校に迎えを行かせる。いいな?」
嫌だ。でもこの人が私の意見を聞くとは思えない。
だから私は大人しく――頷くしかなかった。
私の従順さに満足したのか、お父さんは何も言わずに部屋から出て行く。
「あの人も困ったものねぇ。それ、食べ終わったらそのままにしておいていいからね。朝片付けるから」
パジャマ姿のお母さんも、そう言って部屋を出て行った。
1人残された部屋で、晩ご飯に手をつける。
心配と言うならそうなんだろう。
心配だから決め付けてしまっていると言うならそうなんだろう。
大切に育てられていると言うなら、そうなんだろう。
でも何だかそれが私には――鳥籠に入れられているような感じがして。
管理されているような感じがして。
反抗期なんだろうか。そういうもんなんだろうか。
――…何だか無性に、つい何十分か前まで隣にいた一条さんに、会いたくなった。
彼による支配なら、どうしようもなく心地良いと感じるのに。