■Love and hate.
■Why don't you love me?

焦燥感





思えば、一条さんは絶対に私を抱かない。


手でされる時はあるけれど、一条さん自身が満足するような行為はしない。



それを大事にされていると勘違いしてしまう私は何なのか。




「おーい、栞。聞いてるかー?」


「え…あぁ、まぁ」


「じゃあ今俺が何言ったか言ってみろよ」


「………“このグラビアの女の子可愛い”?」


「違ぇよ!」



違うのか…貴史さんならいつもこんなこと考えていそうだと思ったのに。



私たちは今、私の学校の近くの小さな書店にいる。


私は雑誌も少年漫画も、基本的に何でも読む。


それは貴史さんも同じで、そういう面でも私たちは気が合っていた。



一応婚約者である男性が、せめて話の合う人で良かったと思っている。



「あ…新刊2冊も発売してるね」


「マジ?んじゃ、1人1冊買って貸し合うか」


「よし、じゃあ次会う時用意しといて」



そんな他愛ない会話をしながら、ぶらぶらと歩く。


雑誌が売っている棚の傍を通ると、ふと貴史さんが言った。



「そういやSOROの社長さん、想像してたより若い顔だったな」


少しだけ動揺する私。でも、それは表に出さない。



「まぁ、そうだね」


「何歳で結婚するんだろうな」


「え?」


「いや、もうすぐなんじゃねぇかなって。1人でやっていくのも寂しいだろ。あの人、家族いねぇし」



…家族がいない?



「どういうこと?母親はいるんじゃないの?」


「それがな。あの人の母親、あの人が生まれて間もない頃に死んだらしいんだよ。大変だよなぁ」



思わず息を呑んだ。そんなこと、知らない。


一条さんは私に家族のことなんて話さない。



…というか。


「何でそんなこと貴史さんが知ってるの?」


「いや、俺も知らなかった。ちょっとこの前可愛げのないやつから聞いて…」





その時だった。


「だぁーれが可愛げのないやつですって?」


後ろから、凛とした美しい声。


振り返ると、私より少しだけ背の高い美人さんが立っていた。


腰まである長く綺麗な黒髪。きりっとした目。モデルのように細く長い足。


全身で大人っぽい雰囲気を漂わせている。




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