■Love and hate.
自分の中の不安を押し殺すべく考える前に言葉を吐き出した私に、一条さんが問うた。
「バイト、何でやってるの?」
「…またそれですか。あのお店は閉店時間も早いので、何とか両親の許可を得ることができただけです」
「そうじゃなくて、やろうと思った理由は何?」
「少しは、自分で稼いだお金を使ってみたくて。…反抗心ですよ、いつもの」
一条さんは運ばれてきた湯気の出ている熱そうな珈琲を一口飲む。
その様子を盗み見ると、眉間に少し皺が寄っているのが分かった。
「気に入らないなぁ」
それが珈琲への感想ではないことも分かる。
「栞の反抗心の捌け口は、俺だけでいいのに」
一口だけ飲んだ珈琲のカップをテーブルに置き、立ち上がって私の分まで会計を済ませようとする一条さんを見て、思わず立ち上がった。
「あの…!お金なら洋子さんに貰いましたし、自分のお金もあるので…」
「いらない。俺だって奢ることくらいできるよ」
「でも、洋子さんのお金が…」
「洋子洋子うるさいなぁ。俺じゃなくて洋子に奢られたいの?」
「そ、そういう問題じゃなくて…」
「いいよ、別に。そのお金は俺が返しとくから」
ひょいっとテーブルの上に置かれていたお札を奪い取られる。
その手を止めようと掴んだ――と思ったら、逆に掴み返された。
耳元に吐息が掛かるくらいの至近距離で、一条さんは優しく命令する。
「車、外にとめてあるから。…おいで?」
結局、洋子さんが置いて行ってくれたお金は一条さんのポケットの中に仕舞われてしまった。