■Love and hate.
久しぶりの一条さんによる“手でする行為”は、いつもより荒っぽかった。
時間が無いからなのか、車内だからなのか、それとも何か他に理由があるのかは分からない。
いつもなら痛い事をしてもそれに勝るくらいの快楽をくれるのに、今日は痛い事ばかりだった。
そこら中に噛み付かれた。
うつ伏せに組み敷かれて、少しでも抵抗しようとすると腰に爪を立てられたり、軽く叩かれたりした。
一条さんを怖いと思った。
途中で涙が出てきた。
声を上げるほどの痛みではないのに、一条さんが魔王のように感じられて、一条さんが動く度に恐怖にも似た声が出る。
そんな私を見て一条さんは妙に色っぽい声で「可愛い」と言い、「可愛い、可愛い、可愛い…」と譫言のように続けた。
頭が変になるかと思った。
わけも分からず涙がぼろぼろ溢れて止まらなくなった。
気付けば一条さんの腕の中にいて、優しく頭を撫でられていた。
夢を見ていたんじゃないか、と思う。
酔ったような心地で一条さんに擦り寄った。
私はこの香りが、好きだ。
「栞?」
「……ん」
「俺、そろそろ行かないと」
「ん…」
「離れたくない?」
「ん…」
「可愛いなぁ」
行為の最中に放ったそれとは違う声音が、私を安心させる。
「…じゃあ、もうちょっとだけ傍にいてあげる」
この人は――私の支配者だ。
いつから?いつからこんなことになった?ずっと前から?
両親に縛られるのが嫌で、小さな反抗心から一条さんと関わった。
なのに今は、両親からの束縛と一条さんからの束縛の何が違うのか分からない。
ひょっとしたら、一条さんの方がタチが悪いような気もする。
「栞、」
この人は私の感情をも支配する。
「愛してるよ」
――…その言葉は、私を繋ぐ為の首輪に過ぎない。