■Love and hate.
悪知恵
◆一条side
夜、仕事を終えて家に帰る途中。
何か温かい物を飲みたくなって、自動販売機の前に車をとめた。
ぽつぽつ降る雨が肩を濡らすが、気にはならない。
暗闇の中でぽつんと光る自動販売機の周りには、珍しく虫が集まっていない。
温かいお茶を買って車に戻ろうとすると、近くにあった予備校から女の子が出てくるのが見えた。
あれは――…栞の学校の制服だ。
重そうな手提げ鞄を肩に掛け、傘も差さずに姿勢良く歩き始める。
予備校から漏れ出る光だけが彼女を照らし、よくは見えないが、周りに人がいないことは明らかだった。
足が自然とその女の子に歩み寄っていく。
一度考え付いてしまった企みは、そう簡単に消えてくれない。
――俺が栞と同じ学校の生徒に手を出したら、栞はどんな反応をするだろうか?
どうしてもそれが知りたい衝動に駆られて、女の子に近付いていく自分を止められない。
ついに、その子の行く手を阻むように立ち止まった。
「こんな時間まで勉強?高校生だよね?大変だね」
女の子は俺を見上げ、一瞬驚いたような表情をした。
艶やかで、紫色の着物が似合いそうな雰囲気の子だ。
幼すぎる容姿ならさすがに手を出せないと思ったが、この子なら大丈夫だろう。
「家は近い?雨だし、送るよ」
そう言って車の方に視線をやると、女の子は小さく頷いた。
肩に掛けられた鞄には、参考書やら問題集やらが入っているのが見える。
真面目そうなのに、案外あっさり聞き入れるもんだな…最近の子供はみんなこうなんだろうか。
……栞も、こんな風に提案されたら簡単に付いてくるんだろうか。
俺じゃなくても、ほいほい付いていくんだろうか。
不快な気分になった。
もっと警戒すればいいのに。
栞もこの子も、そんなんだから俺みたいなのに捕まるんだよ?