■Love and hate.
俺が運転席に乗り込むと、女の子は後部座席に乗り込んだ。
買ったお茶を助手席に置きバックミラーで女の子の様子を見ると、重そうな鞄を隣に置いて窓の外を見ている。
「どの辺?」
「すぐ近くです。あそこの信号のところを曲がってくれたらもう見えますよ」
女の子は遠くに見える信号の光を指差してそう言った。
声を聞いただけでも俺を警戒していることが分かる。
そんなに警戒心剥き出しにしても、もう遅いのに。
「ダメだよ?知らない人に付いてきたら。誘った俺が言えることじゃないけど」
警告するように見せかけて警戒心を解くという常套手段――だったが、女の子は俺の予想を上回ることを言い出した。
「知らない人、ではなかったので」
その言葉に、俺は前を向いたまま思案を巡らせる。
この子とどこかで会っただろうか。思い出せない。
「“一条さん”でしょう?SOROの社長の」
「……あぁ、知ってるんだ」
会社繋がりで俺を知ってるってことは、この子もそういう関係の仕事をしている家の子ってことか。
そういえば、栞の通っている学校は所謂お嬢様学校だった。
「えぇ、知ってますよ。…栞との関係も」
その声音からは、警戒の色が消えない。
栞が自分の秘密を誰彼構わずベラベラ喋るようには思えない。
この子が栞とそれなりに近しい関係で、どう聞いているのかは知らないが俺のことをよく思っていないのは明らかだった。
「栞の友達?」
分かっていてわざと聞く俺は、少しだけ楽しくなってきていて。
この子は“栞と同じ学校の女生徒”であるだけでなく“栞に近しい友人”だ。
俺がそんな子に手を出したら、栞のショックはより大きくなる。
場合によってはこの子との仲が悪くなるかもしれないけど…そんなこと俺には関係ないし、それで栞が傷付いて俺の元に縋り付いてくるならもっと良い。
「親友です」
ハッキリ言い切った女の子は、それっきり口を開かなかった。