■Love and hate.
私は一条さんの方に向き直り、一条さんの存在を確かめる為に言った。
「一条さん、…触ってもいいですか」
「……いいよ?好きなだけ、触って」
“傷に”という意味で言ったのに、一条さんは胸元に触れようとした私の手を取り、ゆっくり下へ下降させていく。
「あ、あの…」
「うん?」
その手は私がまだ一度も触ったことのない一条さんの部分に運ばれ、今更そういう意味じゃないとは言えなくなってしまった。
「いや…私こういうのしたことないし、どんな風に触っていいのかも分からないですし…」
「…ん…」
「ど…どこを触ればいいんでしょうか?」
「えっち。俺にそんなこと言わせたいの?栞も意地悪だね。……ん、そこ…」
一条さんから漏れる吐息が色っぽくて、初めて物理的な刺激からではなく男性の感じている姿を見て欲情した。
同時に、私を愛撫している時の一条さんもこんな気分なんだろうかなんて想像してしまって恥ずかしくなった。
そっと、もう片方の手で一条さんの胸元に触れてみる。
……この人を、私の好きな人を傷付けるのは、この人自身なんだ。
* * *
お風呂から出た後は、暖かなリビングで一緒にまったりくつろいだ。
大きいからと断って、一条さんの服ではなく自分の服を乾かして着た。
一条さんがホットミルクをくれて、「おいで」って言われたからソファに座る一条さんの膝の上で飲んだ。
私の素直な反応に満足したのか、触るのが大好きらしい一条さんはベタベタ私に触りまくって、終いにはちゅっちゅちゅっちゅし出した。
暫く会っていないだけでこんなに触り方がねちっこくなるものなのか、と妙に感心してしまう。
ずっとそうしていた後、一条さんが不意に私に言った。
「そういえば、前に栞の友達に会ったよ」
「…え?」
どういうことか分からず、そもそもどうして私の友達を知っているのか分からず振り向くと、
「あぁ、本当に言ってないんだ」
なんて余計意味の分からない言葉が返ってきた。
友達?友達って誰だろう…?
場合によっては単なるクラスメイトでも友達って言うんだから、誰だか分からない。
「随分あの男と仲良いらしいね」
あの男…私と仲の良い男性なんて一条さんを除けば貴史さんくらいしかいない。
そして、私と貴史さんの仲の良さを知っている友達は野薔薇しかいない。
そういえば、野薔薇の機嫌がちょっと悪かった日があったような…何か関係があるんだろうか。
「栞の逃げ場は俺だけだと思ってた」
「え…?」
「でも違った。栞には、学校の友達や婚約者がいるんだね」
「……」
「寂しいなぁ」
その寂しい、には甘えと要求と命令が混じっている気がした。
何にせよ一条さんがいつもよりずっと寂しそうな声を出すから、思わず言う必要もないことを口走ってしまう。
「婚約者、ではありません」
「ん?」
「婚約は、破棄してもらうことになりました」
本当に不必要なことを言ってしまったと後悔したけれど、別に隠すつもりはない。