■Love and hate.
* * *
予定していた通り野薔薇の家に向かい、野薔薇の家族を起こさないよう静かに入った。
一条さんとの関係を終わらせることについては、今朝野薔薇に言っておいたのだ。
今日泊まるところがなくなるから泊めてほしいということも。
野薔薇は、お風呂を入れておいてくれていた。
汗をかいてしまっていたので有り難く湯船につからせてもらい、体に残る一条さんの匂いを消した。
「じゃあ、ちゃんと別れは告げてきたのね?」
部屋に布団を2つ並べて、野薔薇は私の話を真剣に聞いてくれた。
常夜灯だけつけて、お互い布団の中に入ったまま話し合う。
「頑張ったわね、栞」
「ううん。本当は、もっと早くこうするべきだったのかもしれない」
一条さんは、私のことを憎たらしいと言った。
いつから?多分、最初から。
あの時一条さんが私に声を掛けた理由がやっと分かった気がする。
一条さんは私のことが憎かったのだ。
憎しみというよりは、嫉妬なのかもしれない。
常識を誰から教わるのか、という質問の意味も今なら何となく分かる。
彼も私のように、無い物強請りをしている人間の1人なのだ。
最初に一条さんと出会った日、私が第1回目のパーティーに連れて行かれた日、家族で来ている人々はほんの一握りだった。
今では家族込みなのが当たり前のようになっているけれど、第1回目ということもあって今のような娯楽感覚ではなく、社長本人しか来ていないというパターンの方が多かった。
私は親に縛られるのが嫌だと言ったけれど、親のいない一条さんにとってはそんな悩みですら妬ましいと思えたのかもしれない。
それは私が親と友達のような関係を築いている子供を妬ましく思う感情にきっと似ている。
一条さんを、もっと早く解放してあげるべきだった。
私の傍にいて、親ありきな私の悩みを聞いていて、一条さんはどんな気持ちだっただろう。