■Love and hate.
今日は、酷いことを言われた。
彼は私が傷付くようにわざとあんなことを言った。
でも、今までの優しい一条さんが完全に偽物だとは思えない。
あの冷たい声音は確かに本物だけど、それ以外の本物も確かにそこにあったんだ。
私だけが知っている、彼の本当の優しさが。
――ごめんねと。
いつだったか、彼は熱に浮かされながらごめんねと言った。
あの言葉はきっと、私への謝罪だった。
「でも、あの人のこともちょっと心配よね」
布団の中から顔だけ出している野薔薇が、ぽつりと漏らす。
「愛情だろうが憎しみだろうが、栞への感情を糧にしてきたって感じじゃない?話聞いてる限りでは」
「どういうこと…?」
「んー…うまく言えないけど、ちょっとやばそうじゃない。今1人にして大丈夫なのかしら」
「ううん。1人じゃないよ」
「え?」
「今頃洋子さんといると思う。バイト終わってからすぐ洋子さんに連絡しておいたから」
「え…洋子さんって、前話してた一条さんの婚約者の?」
「うん。私は一条さんとバイト先で会って、一条さんは携帯の充電がないから私に洋子さんへの伝言を頼んだってことにした。日付が変わる頃くらいに来てほしいって」
「そう…じゃあ、今頃一緒にいるのね。洋子さんは何て?それで怪しまれなかったの?」
「“あの人はいつも勝手ね”って文句言ってたけど、行くつもりではあるみたいだった。優しい人だよ」
お節介かもしれないけど、洋子さんには一条さんを支えてほしい。
私には、できないから。
「……そろそろ寝よっか。話聞いてくれてありがとう」
「当然。…おやすみ」
そう言って寝返りをうった時、枕元の携帯が震えた。
洋子さんからのメールだった。
――――――
From:洋子さん
Sub:今日は伝言ありがとう(*^-^*)
家に行ったら秀司が飲んでてビックリ(笑)。
今寝かせたけど、結局なんで私を呼んだんだか(`ε´♯)
変だよねー
普段はお酒なんか飲まないのに。
――――――
もう十分だ、と思った。
無性に泣きたくなった。
私は少しだけ、少しだけでも、彼の心の中に入れていたのかもしれない。
――…外から聞こえていた雨音は、もうしなくなっていた。