■Love and hate.
■To tell the truth, he is a coward.

後日談



  “――夜に、呑まれるな――”






人通りの多い駅には、私のデザインした巨大なポスターが壁一面に張られている。




新しく買ったベージュ色のトレンチコートを着て、肌寒い街中を歩いた。




タクシーを呼び、昔バイトをしていた書店まで運んでもらう。




タクシーの運転手は、私に目をやって「どっかで見たことあるなぁ。テレビだったかなぁ」と言って首を傾げた。






――…あれから何年もの月日が流れた。





若手のデザイナーとして、私は漸次知名度を上げている。




大学を卒業してお父さんの会社に就職した私は、一人暮らしを始め、学生時代もずっと続けていた書店でのアルバイトを辞めた。




だから、高校の帰り道でもあるこの辺りに来るのは随分久しい。





「あ、やっほー!」





店内に入った私を明るく迎えてくれるのは、バイトで長くお世話になった早瀬さん。




店内も明るく、様々な装飾が施されている。




私が発案したデザインもあれば、他の店員さん達のアイデアで飾られている部分もある。




今思えば、楽しいバイト生活だった。






「この間栞ちゃんがデザインした広告見たよー!やっぱり栞ちゃんのデザインは可愛いし綺麗だし大好き!」


「どうもありがとうございます」


「有名になっちゃって~仕事も多いんでしょ?大変じゃない?」


「いえ、デザインは好きですから」


「んふふ、変わらないね~栞ちゃん」



そちらもそのハイテンションが変わっていないようで何よりです…。


早瀬さんはずっと同棲していた彼氏と今年結婚したらしく、その左手の薬指にはサイズピッタリな指輪が光っていた。



結婚…か。私にはそんな相手が1人もいない。


大学時代ずっとその手のことがなかったってわけじゃないけど、どうしても長続きしなかった。


この人良いなって思っても、距離が縮まるとやっぱり何か違うなと思ってしまったり。


誰に対しても男としての魅力を感じることができなかったり。


試しに付き合ってみた人もいたけれど、お前はいつも心ここにあらずだ、と身を引かれた。




いいんだ、そんなに急がなくても私には仕事があるんだから…と一人首を振って、新刊コーナーへ向かう。


私と貴史さんが好きなバトル漫画の最新刊が並べられていたので、私はそれを一冊買って店を出た。


腕時計を見ると、既に待ち合わせの時間が迫っている。





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