■Love and hate.
「い、いつ…?」
「いつって…何年か前に。ちょうど俺達の婚約も破棄された頃くらいだったかな。一条さんの方が洋子の家族に直接謝りに来たとか何とか言ってたけど」
動揺している私を少し目を細めてわざとらしく一瞥した野薔薇は、多分少し楽しんでいる。
あの日から、私は一条さんに一度も会っていない。
携帯も買い替えた。
一条さんがバイト先である書店に来ることを心配していたけれど、それもなかった。
人と人との関係というのは案外呆気なく終わるものなのだ、と思った。
それに少しの寂しさを感じながらも、平穏な日々を送れることに満足していた。
今まで一条さんのことを考えたり一条さんのことで悩んだりしていた時間を、自分のことに費やすことができた。
ただ唯一――あれから数ヶ月ほど経った頃、野薔薇から手紙を受け取った。
相変わらずの丁寧な字で“一条”と書かれていた。
一条さんは野薔薇の予備校の前で待っていて、「どうしても渡してほしい」と頼んできたそうだ。
胸の奥がざわざわと騒ぐような感じがした。
時候の挨拶から始まり、私の健康を気遣う内容の後に続く本文は、それまでの他人行儀さとは打って変わって格式張らない平易な文章が綴られていた。