■Love and hate.
不器用なラブレターだと、野薔薇は喩えた。
私と貴史さんの婚約が正式に破棄された頃くらいってことは…あの手紙を書いた時には、もう一条さんと洋子さんの婚約も破棄されていたんだろうか。
「栞?どうした?」
私と一条さんとのことを何も知らない貴史さんは、不思議そうな顔でこちらを見てくる。
所詮は昔のことだ。
そもそも明確な名前を持たないあの関係を今貴史さんに説明するのは難しい。
今更、わざわざ言う必要はない。
でも、
「栞さ、やっぱり…一条さんと何かあるのか?」
貴史さんは私の予想を上回る勘の良さを見せてきた。
「…何で?」
「いや、確証はねぇけどさ。結構前のパーティーで…ほら、まだ栞が高校生だった時の。一条さんが俺らに話し掛けてきただろ?その時、ただの顔見知りって感じがしなかった」
野薔薇の方に目を向けたけど、素知らぬ顔をするだけで何も言ってこない。
貴史さんに伝えるか伝えないかの判断は私に任せるということだろう。
言う必要はないけど、ここまで勘付かれていてわざわざ隠す必要もない。
「…うん。貴史さんの言う通り、あの時はただの顔見知りってわけじゃなかったよ」
「……マジか。どういう関係だったんだ?」
「それなりに親しい関係…だった。説明しずらいからちょっと長くなっちゃうけどいい?」
そう言ってブラウニーを食べる手を止めて水を一口飲むと、野薔薇もこの時を待っていたと言わんばかりに話を切り出してきた。
「私も、栞に言っていなかったことがあるわ」
こうして私たちは、高校生だった頃のことを話し始める。