■Love and hate.
大団円
◆一条side
『――…これより、パーティーを開演致します――』
会場内から聞こえる司会の声は、俺を憂鬱な気分にさせるだけだった。
元々人混みが苦手な俺は会場内の空気がどうしても合わず、結局滅入ってしまっている。
「そんなに疲れるなら出なきゃいいのに」
隣にいる洋子は下の階で行われている食事会の出席者なのだが、俺を気遣ってここへ来てくれたらしい。
自動販売機で買ってきてくれた冷たいお茶は、俺の好きな物だった。
「わざわざありがとう」
「当たり前じゃない。友達なんだから」
洋子は、婚約を破棄した後もずっと俺と親しい友人でいてくれている。
以前のような不誠実な体の関係も今はもうない。
俺が一方的にそれまでの繋がりを絶たせたにも関わらず、今もなおこんな優しさを俺にくれる洋子は、一体どんな気持ちで俺の傍にいるのだろう。
俺には洋子の考えていることが分からない。
ある程度心情を察せる相手と察せない相手がいるが、俺にとって洋子はまさに後者だ。
多分それは俺が自分を基準に物事を考えているからで、自分だったらこうするとかいう勝手な想像が洋子には当て嵌まらないだけなんだろうけど。
今更、ずっと気になっていたことを聞いてみたくなった。
「…ねぇ、洋子」
「何?」
「俺のこと好きだった?」
洋子は不意打ちを食らったように目をぱちくりさせて俺の顔を見る。
かと思えばふっと笑いを漏らし、少し困ったように言った。
「馬鹿な質問。好きだったわよ、そりゃあね。でも、一般的な恋愛感情とは違う。こういう言い方は悪いと思うけど、誰でも良かったの。どんな形であろうと依存させてくれるなら、誰でも」
洋子のその言葉は何故かよく理解できた。
体の関係を持っていた時も薄々分かっていたし、洋子と俺には似ている部分が多くある。
俺は洋子と関わって、自分から逃げられない存在がいるという安心感に依存し続けていたのかもしれない。
「それにね」と洋子が付け足す。
「友達でいる今の方が、貴方は私をちゃんと見てくれている気がする。それだけで十分よ」
「…そっか」