■Love and hate.
夢物語
“若手デザイナーRu-juの社長令嬢×ライバル会社SOROの社長、熱愛!?”
私たちのパーティーでの行動はたちまちメディアに報じられ、週刊誌のトップを飾った。
それほどまでに、あのパーティーの娯楽としての注目度が高まっているということなのだろうか。
「ただいまー」
黒いジャケット、白いレギュラーカラーのシャツ、無地のネクタイ。
ブラックスーツ姿のその男の手には、大きな花束。
それを見て溜め息を吐かずにはいられない。
「またですか…」
「…花、嫌?」
「嫌というか、こう毎日買ってこられると花瓶が…」
「あぁ、花瓶も買ってこようか?」
「そういうことでは……あ、この花可愛いですね」
「…嬉しい?」
「それは勿論…」
嬉しくないわけがないからそう言えば、一条さんはふにゃっと笑った。
このだらしない表情が好きな私は、結局その花束を受け取ってしまうのだから、どうしようもない。
「今日は別の物も買ってきたんだよ」
袋から高そうなドレスを出してきやがったことに絶句する私を、一条さんが何を期待しているのかそわそわしながら見てくる。
「これは……何故…?」
「栞、あの元婚約者から貰ったドレス、まだ持ってるでしょ?」
“元”という部分を強調して言う一条さんは、特に怒っているという様子でもないのに、どこか威圧を感じさせた。
「捨てろとは言わないけど、あれは着ないでほしい」
代わりにこれを着ろ、という命令が言外に含まれている。
「あの、一条さん…嬉しいんですが、最近私にお金を使いすぎじゃないでしょうか」
「…嫌?」
「そうではなく…。もう少し自分のことにお金を使ってください。自分の趣味にでも…」
「これが趣味だよ?」
「はい?」
「俺ね、最近おかしくて。栞が喜んでると心があったかくなる」
「……」
私が高校生だった頃と比べると、一条さんの変化は著しい。
壊れ物を触るように優しく私に触れ、甘やかしてくる。
「じゃあ、今度は一緒に買いに行きましょう」
「…このドレス好みじゃなかった?」
「そういうわけではなく。ただ貰うより、一条さんと一緒に出掛けて買う方が幸せです」
私の言葉を聞いた途端、ぎゅっと私を抱擁して嬉しそうに頬擦りしてくる一条さんは、相変わらず子供っぽい。
「あー可愛い。栞がいないと生きていけない」
ちゅっちゅっとそこら中にキスをしながら、さり気なく私を寝室まで連れ込もうとする一条さんは、このまま私と寝ようとしているのだろう。
最近の一条さんはいつもいつも、私がお風呂に入れてあげないとそのまま寝ようとする。
私を抱き締めたまま布団に入るのが相当好きらしく、お風呂に入る時間も惜しいと言ってなかなかお風呂場まで連れて行けないから苦労する。
必死に抵抗しているのに結局引き摺るようにして寝室まで運ばれる私は、ふと疑問に思うことを口にした。
「どうして私を抱かないんですか?」
誘っているわけでも非難しているわけでもなく、純粋な疑問。
あのパーティー会場での再会から最近は殆ど同棲状態で、毎日一緒に寝ているしお風呂にも一緒に入るのに、一条さんは一向に私に手を出してこない。
高校生の頃にしてきた“手でする行為”もされない。