■Love and hate.
一条さんは私の率直な質問に驚いたのか、意図を探るようにじっと見つめてきた。
私を抱き締める腕の力は全く緩まない。
少し間を置いて、一条さんが口を開く。
「……壊して、しまうような気がして」
「壊す?」
「引かないでよ?…俺、女性を抱く時は縛り付けたくなる」
「……」
「無意識に酷いことを言ってしまうし、酷いことをしてしまう。それで恥ずかしがったり痛がってる姿を可愛く感じて、余計酷いことをしてしまう。手でしてあげてる時だってもう俺のそういう部分が出かかってたのに、抱いたら栞が壊れてしまいそうで怖い」
確かに、一条さんは少し乱暴に私を扱うことがあった。
私は一条さん以外の人とそういう関係を持ったことがなかったし、全ては一条さんが教えてくれた。
だから、いつの間にか一条さんにされた行為が私の常識になってしまっている。
私がまだ高校生だった頃にあれだけのことをしておいて、今更何に脅えると言うのか。
「いいですよ?一条さんになら何されても」
一条さんはそんなことを言う私を凝視して、顔を少し赤らめた。
可愛らしいその反応とは裏腹に、手は私の服を脱がせにかかっている。
今の言葉も誘っているわけではなかったのだけれど、結果的にそう感じられてしまったのなら仕方ない。
私は一条さんの背中に手を回し、身を預けるようにして擦り寄った。
「でも…」
「うん?」
「ずっと縛られてるのはちょっと嫌です」
「栞が嫌ならしないよ」
「だから、代わりに手を繋いでいてください」
そっと一条さんの手を取ると、嬉しそうに指を絡められた。
「…優しくする…」
私の首筋に顔を埋めて小さくそう言った一条さんは、次の瞬間私をベッドに押し倒していた。
ふかふかのベッドが倒れ込んだ私を包み込む。
お風呂は入らないのかとか電気は消さないのかとか、聞きたいことは色々あったのに、一条さんの香りに包まれると、全てがどうでもよくなった。
有言実行と言うべきか、一条さんはこれまでにないくらい優しく私の初めてを奪った。
ゆっくりゆっくり私のペースに合わせてくれて、その前の私への愛撫に費やした時間も執拗なほど長かった。
最初のうちは慣れない異物感に戸惑っていたものの、一条さんは急ぐことなく手でする行為をしてくれて、甘い言葉を囁かれて、次第に変な気分になっていった。
その間、私たちはずっと手を繋いでいた。
一条さんは終わってからもずっと隣にいてくれた。
「大丈夫だった?」とぐったり横になっている私を優しく撫でてくれた。
経験がないから上手い下手は分からないけれど、一条さんによる行為はどこまでも丁寧だ。
「こういうの、男の人はしないかと思ってました」
「うん?腕枕のこと?」
「それもありますが、事後の気遣いというか…しないことが悪いとも思わないんですけど、一条さんは特別なのかなって」
「…誰と比べてんの?」
「……そういうことではなくてですね?個人的なイメージでは男性はこういうことをしないと思ってまして…」
「他の男はどうか知らないけど、俺は栞に構いたくて仕方ないよ?」
「…そう……ですか」
やはり一条さんは特別…というか、変わり者な気がする。