■Love and hate.
「どちらへ?」
「東口のホテルまでお願いします」
パーティーまでまだ時間があるし、ドレスアップは向こうでするつもりだ。
移動中も窮屈なドレスを着ておくなんて、私にとってはかなりの苦痛。
切っていた携帯の電源を入れると、いくつかの着信が入っていた。
履歴に表示された名前は全て同じ人物――私の許嫁、結城 貴史さんからの着信だった。
貴史さんは大手ファッション会社社長のご子息で、私の親の会社との繋がりも深く…私との結婚はずっと前から決まっている。
きっとパーティーのことで昨夜連絡してくれたのだろう。
私はすぐに折り返しの電話をした。
1コール、2コール、3コール…独特の機械音の後に、優しげな声が鼓膜を震わせた。
『もしもし?』
聞き慣れた貴史さんの声。
何を言おうか数秒迷った挙げ句、とりあえず分かり切ったことを質問した。
「昨日電話した?」
貴史さんは19歳、私は17歳。
友達のような感覚の付き合いをしている。
『したけど、今どこだ?』
「今は…ホテルに向かってるところ」
『了解。フロントで待ってるから早めに来いよ』
用件は着いてからのお楽しみ…ということらしい。私は「分かった」と小さく呟いて電話を切った。