黒いポストの手神様と白いポスト
手紙の手神様と黒いポスト
手紙の神様がいるらしい。その名も手神様。これは都市伝説の本に書いてあったのだが、黒いポストに呪いたい相手と自分の名前と住所を書くと、その相手に不幸の手紙が届き、本当に不幸になるらしい。黒いポストは呪いの心を持ち、手紙を出したいとする者の前に現れるらしい。
私は、いじめてくる嫌いな同級生を呪いたい一心だった。手神様に呪いをかけてもらい、その人を不幸にしたいと思い、手紙を書いて持ち歩く。いつ、黒いポストが現れてもいいように。
カサカサカサカサカサカサ―――
伸び放題の草が風に吹かれて音を立てているようだ。
通学路ではない道をわざと帰りに通ってみる。草が生い茂る人通りの少ない裏路地を歩くと、初めて見る珍しい黒いポストがあった。黒光りしていて漆黒色というのだろうか。赤いポストとは形も違う。昔の筒のような形のポストの形をしていた。黒いポストを見つけた私の心は踊る。やっぱり伝説は本当だったのだ。私は呪いたい相手複数人の名前と住所を書いた手紙をポストに入れた。あの人たちに不幸が起こりますように、と願いながら。きっと神様が不幸を届けてくれると信じていた。黒いポストに出会えた私は幸運だとすら思えた。
カサカサカサカサカサカサ――相変わらず音がしたが、私は振り向くことはなくそのまま帰宅した。
その次の日、クラスメイトの間では、手紙の話で持ち切りだった。私が呪いたい相手数人が輪になって話していた。内容は、案の定不気味な手紙が届いて怖いという話をしていた。心の中で、「ざまあみろ」と思った。
しかし、いじめっこたちがちっとも恐れてはいない様子で話し始めた。
「5人に不幸の手紙を書かないと呪うって書いてあったの」
「今時手紙ってありえないよね」
「不幸の手紙? ひと昔前の話じゃないの?」
「無視しようよ」
手紙を馬鹿にし始めた。怖がる様子も感じられない。そのうちひどい目にあえばいいのだ。そう思っていた。
帰宅すると私宛に手紙が届いていた。幸福の手紙と書かれていた。
内容は――この手紙を受け取った人は1週間以内に5人に同じ内容の手紙を書かないと呪われるが、書けば幸せになれます。書かないと幸せになれないなんて……その文面を見て私は絶句した。
幸せの手紙という名の不幸の手紙だった。
その頃からだろうか、カサカサ音がするなと思うようになった。最初は空耳かと思ったのだが、何度もその音を経験する。何かの気配がするのだ。一人で部屋にいるときや、放課後帰宅するとき……場所を選ばず音がする。
カサカサカサカサカサカサ――
夜中、天井で何かが動いているような気がした。目を凝らすと、薄暗いが、手が動いていたのだ。手だけが空中を動いている。もしかして、手神様って手紙の神様じゃなくて手の神様?
私は手神様についてネットで、調べてみることにした。
すると――手神様は手だけの神様で元々は迷子郵便になった手紙の魂が手の形の神様になったということだ。
そして、メールが普及し、手紙を書かなくなった今では手紙を絶滅させないように手紙を書かせる神様になったらしい。そうか、私は呪いをかけようと思っていたけれど、手紙を書くきっかけを作らせられたのだ。手神様の策略なのかもしれない。
幸福の手紙も不幸の手紙も、最初にポストに入れたものも手紙だ。今の時代、人はこういったことでもなければ、なかなかまめに手紙を書くこともないだろう。
手神様を目の前から消すには、手紙を毎日のように書くしかないらしい。そうすれば、いつのまにか消えてくれるそうだ。それ以来、毎日私は呪いの手紙を憎んでいる相手に書くことにした。そして、それを見た手神様はいつのまにか消えるだろう。でも、手だけの生き物を見ながらカサカサカサという紙のこすれたような音を聞きながら、呪いの手紙を書いている私は既に呪われているのかもしれない。
――呪われていることに気づかないだけで。
呪った相手が手紙を書かなければ不幸になるだろうと思ったのだが、呪った相手が私宛に不幸の手紙を書いてきたのだ。1週間以内に5人に書かなければ呪われるという文面だった。私は同級生の住所も名簿がないためわからないし、知り合い5人に手紙を書くことは正直難しい。これは、時代のせいだ。個人情報の関係で住所が非公開になっている。さらに、今はメールやアプリで文字を送信できるので便利だ。リアルタイムに連絡できるので、手紙よりもずっと早い。便利になったのだから、時代の流れに逆らおうとする手神様は間違っている。私は不幸になるということだろうか?
振り返ると手の形をした何者かがこちらを見ている。監視をされているようだった。
私をいじめていたクラスメイトたちは手紙を書かなかったようだった。日に日に顔色が悪くなる。
1人目は「手がこちらを見ている」ということを授業中に叫びだし、そのまま保健室へ連れていかれた。顔色は悪く焦点が定まっていない様子だった。
2人目は「手が襲って来る」といいながら、気を失ってしまった。急いで救急車を呼ぶ騒ぎになった。
3人目は特に変わった様子はなかった。一緒に手紙のことを馬鹿にしていたのになぜなのだろう?
「高橋さんが呪いの手紙を送ったんでしょ?」
3人目の平気な顔をした白咲さんが涼しい顔をしてやってきた。
「白咲さんは、あの二人をどう思う? 手が襲って来るとか言っていたでしょ」
「あの二人は見つけられなかったみたいね。白いポストを見つけて呪いの手紙を入れると、呪いは消えるのよ」
「白いポスト?」
「そんなことも知らずに黒いポストに手紙を入れるなんて、あなたバカじゃないの?」
白咲さんは大人びていて、きれいな顔をしている。
「白いポストが今日ある場所を教えるわ。あの二人も救わないと」
私は昼休みに抜け出して、学校の近くに今日存在しているという白いポストを探し出した。白い色は白銀のような色合いで光が照らされて、とてもきれいな色に見える。
「ここに、呪いの手紙を入れれば解決するのよね」
ずっとカサカサという音が耳から離れない。ずっと私の側から手の神様、いや、手の悪魔が離れない。
カサカサカサカサカサカサカサカサ――――――だんだん音が大きくなり耳をつんざくような不快な音を響かせる。
振り向くと黒い手のようなものが監視している。手紙を入れようとすると――黒い手が襲って来る。私は、怖くなりその場にしゃがんだ。
「はやく、手紙を入れてしまいなさい!!」
白咲さんは、黒い手を剣のようなもので消滅させた。
私が急いで手紙をポストに入れると――先程まで鳴りやまなくなっていたカサカサという音は消えていた。
「これは、あなたがクラスメイトに書いた手紙よ。あなたの手で、白いポストに入れなさい」
白咲さんが持っていた手紙は先程早退した二人に出した手紙だった。
ポストに入れると、私は安堵のため息をつく。
「白咲さんは何者なの? たしかあの二人と一緒に私をいじめていたような記憶があるのだけれど」
「私は、黒いポストと闘う白いポストの使いなの」
「先ほど持っていた剣みたいなものは?」
「あれは、Wi-Fiでできていて、光通信からできた剣なの」
「どういう意味?」
「アナログの手紙、つまり黒いポストに対抗できるのはデジタル通信でしょ。インターネットの通信からの使者が白の組織なのよ」
よくわからないけれど、白の組織というのは正義の味方なのだろうか。
「あなた、手紙という手段で人を呪おうとしたけれど、そういうことは白の組織が許さないから。もし、今後また黒いポストに出会ったらこれで私を呼んで」
私がスマホを見ると、そこには白いポストと書かれたアプリが入っていた。
「このアプリを立ち上げれば光が放たれて、黒い手は消滅できるわ。あと、もうひとつ注意事項があるの。黒いポストというアプリがあって、今はそれで呪いをかけることができるみたい。黒の連中もデジタル化してきたってことね。だから黒いポストというアプリには気をつけてよ」
翌日、いじめていたクラスメイトは元気になって登校している。もう、いじめは辞めたようだ。それは、手神様のおかげかもしれないと感謝をする。しかし、お礼を言おうと白咲を探したが、白咲というクラスメイトはどこを探しても存在していなかった。私は元々クラスメイトだと認識していたのだが、そんな女子は最初からいなかったらしい。誰も知らないと口をそろえて言う。昨日、このクラスにいたのにいなかったことになっているらしい。でも、たしかに私のスマホには白いポストというアプリが入っており、アンインストールはできない仕様になっていた。
通学路で黒いポストを見かけたとしたら、カサカサカサという音がするかもしれない。振り返ったら黒い手の手神様と呼ばれる妖怪のようなものがいるだろう。しかし、白いポストというアプリは普通は入手はできないので、黒いポストには関わらないほうが身のためだろう。
ふと見ると黒いポストというアプリがいつのまにかインストールされている。私は怖くなり、スマホの電源を切った。
私は、いじめてくる嫌いな同級生を呪いたい一心だった。手神様に呪いをかけてもらい、その人を不幸にしたいと思い、手紙を書いて持ち歩く。いつ、黒いポストが現れてもいいように。
カサカサカサカサカサカサ―――
伸び放題の草が風に吹かれて音を立てているようだ。
通学路ではない道をわざと帰りに通ってみる。草が生い茂る人通りの少ない裏路地を歩くと、初めて見る珍しい黒いポストがあった。黒光りしていて漆黒色というのだろうか。赤いポストとは形も違う。昔の筒のような形のポストの形をしていた。黒いポストを見つけた私の心は踊る。やっぱり伝説は本当だったのだ。私は呪いたい相手複数人の名前と住所を書いた手紙をポストに入れた。あの人たちに不幸が起こりますように、と願いながら。きっと神様が不幸を届けてくれると信じていた。黒いポストに出会えた私は幸運だとすら思えた。
カサカサカサカサカサカサ――相変わらず音がしたが、私は振り向くことはなくそのまま帰宅した。
その次の日、クラスメイトの間では、手紙の話で持ち切りだった。私が呪いたい相手数人が輪になって話していた。内容は、案の定不気味な手紙が届いて怖いという話をしていた。心の中で、「ざまあみろ」と思った。
しかし、いじめっこたちがちっとも恐れてはいない様子で話し始めた。
「5人に不幸の手紙を書かないと呪うって書いてあったの」
「今時手紙ってありえないよね」
「不幸の手紙? ひと昔前の話じゃないの?」
「無視しようよ」
手紙を馬鹿にし始めた。怖がる様子も感じられない。そのうちひどい目にあえばいいのだ。そう思っていた。
帰宅すると私宛に手紙が届いていた。幸福の手紙と書かれていた。
内容は――この手紙を受け取った人は1週間以内に5人に同じ内容の手紙を書かないと呪われるが、書けば幸せになれます。書かないと幸せになれないなんて……その文面を見て私は絶句した。
幸せの手紙という名の不幸の手紙だった。
その頃からだろうか、カサカサ音がするなと思うようになった。最初は空耳かと思ったのだが、何度もその音を経験する。何かの気配がするのだ。一人で部屋にいるときや、放課後帰宅するとき……場所を選ばず音がする。
カサカサカサカサカサカサ――
夜中、天井で何かが動いているような気がした。目を凝らすと、薄暗いが、手が動いていたのだ。手だけが空中を動いている。もしかして、手神様って手紙の神様じゃなくて手の神様?
私は手神様についてネットで、調べてみることにした。
すると――手神様は手だけの神様で元々は迷子郵便になった手紙の魂が手の形の神様になったということだ。
そして、メールが普及し、手紙を書かなくなった今では手紙を絶滅させないように手紙を書かせる神様になったらしい。そうか、私は呪いをかけようと思っていたけれど、手紙を書くきっかけを作らせられたのだ。手神様の策略なのかもしれない。
幸福の手紙も不幸の手紙も、最初にポストに入れたものも手紙だ。今の時代、人はこういったことでもなければ、なかなかまめに手紙を書くこともないだろう。
手神様を目の前から消すには、手紙を毎日のように書くしかないらしい。そうすれば、いつのまにか消えてくれるそうだ。それ以来、毎日私は呪いの手紙を憎んでいる相手に書くことにした。そして、それを見た手神様はいつのまにか消えるだろう。でも、手だけの生き物を見ながらカサカサカサという紙のこすれたような音を聞きながら、呪いの手紙を書いている私は既に呪われているのかもしれない。
――呪われていることに気づかないだけで。
呪った相手が手紙を書かなければ不幸になるだろうと思ったのだが、呪った相手が私宛に不幸の手紙を書いてきたのだ。1週間以内に5人に書かなければ呪われるという文面だった。私は同級生の住所も名簿がないためわからないし、知り合い5人に手紙を書くことは正直難しい。これは、時代のせいだ。個人情報の関係で住所が非公開になっている。さらに、今はメールやアプリで文字を送信できるので便利だ。リアルタイムに連絡できるので、手紙よりもずっと早い。便利になったのだから、時代の流れに逆らおうとする手神様は間違っている。私は不幸になるということだろうか?
振り返ると手の形をした何者かがこちらを見ている。監視をされているようだった。
私をいじめていたクラスメイトたちは手紙を書かなかったようだった。日に日に顔色が悪くなる。
1人目は「手がこちらを見ている」ということを授業中に叫びだし、そのまま保健室へ連れていかれた。顔色は悪く焦点が定まっていない様子だった。
2人目は「手が襲って来る」といいながら、気を失ってしまった。急いで救急車を呼ぶ騒ぎになった。
3人目は特に変わった様子はなかった。一緒に手紙のことを馬鹿にしていたのになぜなのだろう?
「高橋さんが呪いの手紙を送ったんでしょ?」
3人目の平気な顔をした白咲さんが涼しい顔をしてやってきた。
「白咲さんは、あの二人をどう思う? 手が襲って来るとか言っていたでしょ」
「あの二人は見つけられなかったみたいね。白いポストを見つけて呪いの手紙を入れると、呪いは消えるのよ」
「白いポスト?」
「そんなことも知らずに黒いポストに手紙を入れるなんて、あなたバカじゃないの?」
白咲さんは大人びていて、きれいな顔をしている。
「白いポストが今日ある場所を教えるわ。あの二人も救わないと」
私は昼休みに抜け出して、学校の近くに今日存在しているという白いポストを探し出した。白い色は白銀のような色合いで光が照らされて、とてもきれいな色に見える。
「ここに、呪いの手紙を入れれば解決するのよね」
ずっとカサカサという音が耳から離れない。ずっと私の側から手の神様、いや、手の悪魔が離れない。
カサカサカサカサカサカサカサカサ――――――だんだん音が大きくなり耳をつんざくような不快な音を響かせる。
振り向くと黒い手のようなものが監視している。手紙を入れようとすると――黒い手が襲って来る。私は、怖くなりその場にしゃがんだ。
「はやく、手紙を入れてしまいなさい!!」
白咲さんは、黒い手を剣のようなもので消滅させた。
私が急いで手紙をポストに入れると――先程まで鳴りやまなくなっていたカサカサという音は消えていた。
「これは、あなたがクラスメイトに書いた手紙よ。あなたの手で、白いポストに入れなさい」
白咲さんが持っていた手紙は先程早退した二人に出した手紙だった。
ポストに入れると、私は安堵のため息をつく。
「白咲さんは何者なの? たしかあの二人と一緒に私をいじめていたような記憶があるのだけれど」
「私は、黒いポストと闘う白いポストの使いなの」
「先ほど持っていた剣みたいなものは?」
「あれは、Wi-Fiでできていて、光通信からできた剣なの」
「どういう意味?」
「アナログの手紙、つまり黒いポストに対抗できるのはデジタル通信でしょ。インターネットの通信からの使者が白の組織なのよ」
よくわからないけれど、白の組織というのは正義の味方なのだろうか。
「あなた、手紙という手段で人を呪おうとしたけれど、そういうことは白の組織が許さないから。もし、今後また黒いポストに出会ったらこれで私を呼んで」
私がスマホを見ると、そこには白いポストと書かれたアプリが入っていた。
「このアプリを立ち上げれば光が放たれて、黒い手は消滅できるわ。あと、もうひとつ注意事項があるの。黒いポストというアプリがあって、今はそれで呪いをかけることができるみたい。黒の連中もデジタル化してきたってことね。だから黒いポストというアプリには気をつけてよ」
翌日、いじめていたクラスメイトは元気になって登校している。もう、いじめは辞めたようだ。それは、手神様のおかげかもしれないと感謝をする。しかし、お礼を言おうと白咲を探したが、白咲というクラスメイトはどこを探しても存在していなかった。私は元々クラスメイトだと認識していたのだが、そんな女子は最初からいなかったらしい。誰も知らないと口をそろえて言う。昨日、このクラスにいたのにいなかったことになっているらしい。でも、たしかに私のスマホには白いポストというアプリが入っており、アンインストールはできない仕様になっていた。
通学路で黒いポストを見かけたとしたら、カサカサカサという音がするかもしれない。振り返ったら黒い手の手神様と呼ばれる妖怪のようなものがいるだろう。しかし、白いポストというアプリは普通は入手はできないので、黒いポストには関わらないほうが身のためだろう。
ふと見ると黒いポストというアプリがいつのまにかインストールされている。私は怖くなり、スマホの電源を切った。