クールな王太子は一途に愛を待ち続ける~夢灯りに咲く紫苑~
「その、押し花というものは、どうやって作るのですか?」
「こうして紙のあいだに挟んで、上から重石を置くのよ」
「なるほど。これはそのための書物なのですね」

 どこから調達してきたのかレーナにはわからないが、分厚い本がたくさん積まれてある。
 表紙に文字が書かれてあり、見たことのない文字のはずなのに、夢の中のレーナはなぜかそれをすらすらと読めた。どうやらなにかの思想書らしい。

「上手に出来たら、あなたにもひとつあげるわね」
「え! もらえるならうれしいですけど、いいんですか? そのお花はコウタロウ様からいただいたものですよね?」
「そうなの。お庭にたくさん咲いているらしくてね、わざわざ摘んできてくださったの。薄紫色でかわいらしい花よね」

 にっこりと微笑み返したところで目が覚めた。カーテンの隙間から朝日が差し込んでいて鳥が鳴いている。
 不思議な夢を見るときはなぜか朝方が多いなと考えつつ、身体を起こしてノートに内容を書きこんでいく。
 だけどふと、今日はいつもと違うことがひとつだけあったとレーナは気がついた。

 使用人の少女が名前を口にしたのだ。たしか……コウタロウ様、と。
 夢の中でレーナはその名を聞き、照れながら胸をときめかせていた。そこから察すると、おそらく恋人か片思いをしている相手なのだろう。
 実際にコウタロウという人が夢に現れたわけではないので、どんな男性なのかはわからない。

 悩んだところで答えが出ないのはいつものこと。ただ言えるのは、怖い夢ではなく、どこか懐かしい気持ちになる。
 どうせならコウタロウと対面してみたかったなと思いつつ、レーナはそっとノートを閉じて朝の身支度に取り掛かった。
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