クールな王太子は一途に愛を待ち続ける~夢灯りに咲く紫苑~
「ルシアン、別のグラスを」

 オスカーが後方に控えていた侍従のルシアンに伝えると、彼は手元で隠すように持っていた銀製の器をテーブルの上にそっと置いた。
 ルシアンはこのタイミングで器を出すよう秘密裡に知らされていたので、なにも驚くことなく無駄のない動作で再び後方へ下がっていく。
 国王であるブノワがそれに気づき、オスカーに視線を向けた。

「オスカー、どうしたのだ?」
「恐れながら王様に申し上げます。飲み物に毒が入っているやもしれません。乾杯はしばしお待ちを」

 その言葉を聞いたブノワ王はキュッと眉をひそめた。
 会話は貴族たちにも聞こえていたため、当然あちこちでザワザワとし始める。

「毒? 誰が盛るというのだ」

 横から口を挟んだのはブノワ王の五歳年下の弟にあたるフョードルだった。

「見よ、オスカー。お前のせいでせっかくの宴が興ざめだ」

 フョードルは不機嫌さを全面に顔に出し、やれやれと言わんばかりに大げさに息を吐く。

「王様、このままでは宴が始められませぬ」

 普通の貴族や騎士ならこんなふうに国王に物申すことはできない。王弟であるフョードルだからこそだ。
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