クールな王太子は一途に愛を待ち続ける~夢灯りに咲く紫苑~
「夢を見たの。ジェシカが出てきた」
「私? どんな夢だったの?」
「それが……頭の中で途切れ途切れになってて、よくわからないの」

 レーナが見た夢は、次々とシーンが切り替わる短い映像の継ぎはぎのような感じで。
 しっかりと場面が繋がっていないから、うまく説明できなくてしばし考え込んだ。
 でもひとつだけ言えるのは、調理補助係のジェシカと共に調理場で仕事をしている夢だった。

「最近、よく夢の話をするよね」

 ジェシカの言うとおり、レーナはここ最近ぐっすり眠れていないせいか、夢を見ることが多くなった。
 今朝は王宮内での出来事だったけれど、まったく知らない場所が出てくることもある。
 どこか懐かしい感じがするものの、登場する人物も風景も屋敷もこの国とは丸きり違っていて、とても不思議な夢だ。
 しかし、おかしなことを言うと思われたくなくて、レーナは誰にも話せていない。

「今日は洗濯を早く片付けて、お昼には調理場に行かなきゃ」
「そっか。レーナと一緒に働けるんだね」
「オディル様に叱られないようにがんばる」

 使用人たちの仕事を采配して束ねている使用人頭がいる。オディルという名の四十代の女性だ。
 レーナは主に洗濯や衣装のほころびを直す係りなのだけれど、ほかの部署で手が足りないときは応援に回ることになっている。
 昨日仕事を終えるころ、調理補助係のマリーザが体調を崩していて実家に帰らせているから、調理場を手伝うようにとレーナはオディルから指示を受けた。
 調理場はせわしない場所だが、気心の知れたジェシカがいるので緊張しないで働ける。
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