クールな王太子は一途に愛を待ち続ける~夢灯りに咲く紫苑~
 顔を洗って身だしなみを整えたレーナとジェシカはそれぞれの持ち場へ向かった。
 王国の歴史や古代の英雄たちを記した石碑が並ぶ広場を通り抜けると、洗濯係が仕事をしている場所にたどり着く。

 同じ洗濯係の同僚たちに「おはよう」と笑顔で声を掛け合う。
 大きな井戸のそばに木製のたらいがたくさんあって、洗濯物が山積みにされている。
 すぐ近くには王宮の衛兵や騎士たちが剣や弓の訓練を行うための鍛錬場があり、何人かの男性の声が聞こえてきた。
 そんな中、手押しポンプを使って井戸の水を汲み上げる。――――これがレーナの日々のルーティンだ。

「レーナはもう行っていいよ。あとはやっとく」
「そう? ごめんね。行ってくる!」

 残りの洗濯をほかの同僚たちに任せ、レーナは小走りで調理場へ向かった。
 昼食の準備に追われているそこはまるで戦場のよう。料理人や使用人たちがせわしなく動いている。
 奥には王族の食事を任された専属料理人の姿が見えた。

「レーナ、そこにある玉ねぎの皮を剥いてくれ」
「わかりました」

 料理人から指示を受けて黙々と仕事をこなしているうちに、午前の訓練を終えた衛兵や騎士たちが順番にやってきて食事を始めた。
 使用人たちの食事は粗末なまかないだが、宮殿内や国境の警備を担う彼らにはボリュームのある料理が振る舞われている。
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