御曹司は幼馴染を溺愛して蕩けさせたい
「行くぞ」

そう言って、奏翔は私の手を取り二人を抜かして歩き出した。

「さよなら」

私は去り際にそれだけ彼に言ってその場を後にした。

その後奏翔は私の手を掴んだまま何も言わずに車まで歩く。

掴まれた手が大きくて力強くて、その手を見ながら一人じゃなくて良かったと思った。

「奏翔…」

「あ、悪い」

奏翔はパッと手を離した。

別にいいんだけど。
お礼を言おうと思っただけなんだけどな。

そして奏翔の乗る四つのリングが重なったエンブレムが特徴のドイツ製の大型SUVに乗り込む。

「あんな男、忘れちまえ」

奏翔が車を走らせながら話し出す。

「うん」

「思い出すだけで戻って殴ってやりてぇわ」

奏翔はあらゆる格闘技をしてきてるからそれはやめた方がいい。
だからさっきも私は全力で止めた。

「気絶しちゃうでしょ。ダメだよ」

「んとによ。あんな男、別れて正解だ」

ハンドルをグッと握った。

「驚いたけど案外大丈夫だわ。あながちあの人が言ってた事、間違ってないし」

「んなこと…」

「あんのよ。私全く愛情表現してなかったから。だから、いいのよ! はいおしまい!」

本当にあの人が言った通りなのかも。
私には恋愛において何か欠けているのかもしれない。
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