絶え間ない心変わり
初対面のイラストレーターは顔出しはNGということで、音声のみの打ち合わせだった。
午後2時に繋いだzoomで、予定変更の謝罪とお礼を言った。
すると 芹沢亜世(せりざわあよ)という変わった名前の相手は、ドライに「迷惑ですね」と言い放った。

『詳しい理由をお聞きしてないんですが、体調不良とかですか?』
「ええ、まあ」
『その声だと……二日酔いじゃないですか?』

ズバリに言い当てられ、ぎくりとなる。

『図星ですか。噂通りですね』
「……どんな噂ですか」
『河岸さんって、イケメンライターって評判ですけど、関わった女性はおおむね食い物にされてるって』

それは言いがかりだろ。
流石に関わった女性全員ってことはないし、俺にだって選ぶ権利はある。
せいぜい10人出会ったら一人くらいは、それっぽい空気に持ち込むっていう程度だ。
でもそれが芹沢さんには気に食わないらしかった。

『なんていうか……河岸さんの声からは傲慢さを感じます』
「声で何がわかんの。噂からの思い込みですよね」
『いえ、初対面の人との午前の約束を平気で午後にしたり……傲慢ですよ。何様なんですか?』

こんなにもズケズケ意見を言ってくる女性を俺は知らない。
ちょっと新鮮な気分にもなるが、腹が立つところがないわけでもない。

「こっちも君からそんなふうに言われる覚えないんだけど」
『一緒にお仕事をする人には、ある程度尊敬する気持ちが欲しいんです』
「尊敬……そんなもの必要かな」

たかがコラムひとつだ。
彼女は花を描いて、それらしく合体させればいいだけだ。
そうは思うものの、珍しく仕事に本気でプロ意識を出してくる彼女との出会いは俺の心を軽く揺すった。

「どうしたら尊敬してもらえるんですか」
『今日お話しするまでは尊敬してましたよ。だから仕事を引き受けたんです』
「へえ」

意外なことを聞いた気がして、思わずアヒルのアイコンしか映ってない画面の前に身を乗り出す。

「どの辺を尊敬してくれたの」
『結構昔ですけど、ブログに読書感想文書いてましたよね』
「あー、まだプロのライターになる前にね……って、そんな前の文章読んでたんですか?」
『ええ。私とほぼ同じ書籍を読んでいたので、自分の感想と比較して、洞察の深さに感心してたんです』

(あれを熱心に読んでた人がいたのか)

驚きと共に、芹沢さんへの興味が湧いてきた。
女性としてというより、深く物事を洞察しているふうなこの人とちゃんと話してみたいと思ったのだ。

「あのさ……誤解のないように言うけど──」

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