星から推しがやってきた!

あやしいカンケイ


「「どういうこと?」」

「え~っと……」

 声をそろえて迫ってくる茉耶ちゃんと葉月に、タジタジのわたし……。
 あの記者会見の翌日、校舎に入る前に二人に連れ去られて質問攻めにあう羽目に(やっぱり、そうなるよね……)。
「とにかく、落ち着いて……」
「落ち着けるわけないでしょ! あんたが九條 錬の妹って、どういうことなの?」
「そうだ! 信じられるわけないだろっ」
「何かのイベントなの? ドッキリなの?」
「分かった! 罰ゲームだな? 民宿に泊まった時に、お前が何かやらかしたんだろ?」
「ちがう! あれは罰ゲームなんかじゃない」
 そう。それだけは断言できる。最初はびっくりしたけれど、わたし自身が「いいよ」って決めたことなんだから。
「じゃあ、何? やっぱり、一般人を巻き込んだドッキリ企画?」
「それも、ちがう」
 首を横にふると、二人はもっと困った顔をする。二人にうそをつくのはしんどい。だけど、九條 錬のためにも本当のことを言うわけにはいかない。
「じゃあ、きのうの記者会見は何だったの?」
 茉耶ちゃんも葉月も、きっとこのまま逃がしてはくれない。
 でもそれは分かっている。ぜんぶ、茨木さんの想定済み。だから、とっておきの【理由】を用意してくれた。
「じつはね」
 胸に手を当てて、深呼吸する。
 大丈夫。家でも練習したんだもん。ちゃんと演技できる。
 すべては、推しのため。
「九條 錬に妹がいるのは、本当なの。でも、わたしじゃない」
「でも、記者会見では理奈だって」
「ちがう。わたしは、代役をたのまれただけ。本物の妹さんは今、体が弱くて海外の病院にいるの」
「「えっ?」」
 二人の顔がとたんに悲しそうになる。わたしは心苦しく思いながら、目元に手を当てながら演技を続ける。
「九條 錬のご両親はいなくて……でも今すごく家族の支えを必要としている。そんな時、民宿で出会ったわたしを妹役に抜擢したの。なんでも、本当の妹さんと似ているんだって」
「そうなんだ……」
 信じて……くれているっぽい?
「ごめんね。この話はすごくプライバシーにかかわることだから、ほかの人には内緒で!」
「うん、そうだよね! あたしの胸に秘めとくから!」
「まあ……分かった」
 とにかく、二人ともそれ以上あれこれ聞いてこなくて、ちょうどいいタイミングでチャイムが鳴った。
 わたしたち三人は急いで校舎に向かう。
「未空」
 玄関に飛び込む直前、葉月に呼び止められた。ふり返ると、いつもとはちがう真剣な表情でわたしを見つめていた。
「どうしたの?」
「あのさ、おれのただのカンだけど……さっき言ったことはウソじゃないよな?」
「え」
「なんていうか、もっと大変なことに巻き込まれてるんじゃないよな?」
 するどい一言に、わたしもとっさに答えられない。葉月は陽気で、裏表がなくて、単純。だけどときどき、ほかのだれも気づかないことに気づく。
 葉月のカンは、今一番こわいかもしれない。
 だけど―。
「やだなあ、葉月。これ以上大変なことなんてないよ」なるべく自然な笑顔でごまかす。「もっと大変なことって何? 大人気アイドルの妹役をやる以上に何かあったら、わたしたおれちゃうよ。あはは」
 ぽんぽんっと肩をたたく。
「そう、だよな……そっか。おれの考えすぎか」
 ぎこちないけれど、葉月もようやく納得してうなずいてくれる。
「葉月、変なの~」
「変なのはお前だろっ。芸能人の妹役なんて、カンタンに引き受けたりして。茉耶も言ってたけれど、この先大変だぞ」
「最初から分かってるよ。でも、推しのためだよ? やるっきゃないでしょ!」
 わたしだけのためじゃない。九條 錬がアイドルをやめなきゃいけないことになったら、茉耶ちゃんも、ほかの大勢のファンも悲しむ。
「ったく。ほんと、ドルオタは理解できねえ」
「サッカーオタクだって理解できないよ」
「おれはオタクじゃなくて、プレイヤーだ!」
 校舎に入る前に、葉月がうでをつかむ。
「まだ何か言いたいの?」
「いや、えっと。学校のやつらもさわぐと思う……その、だから……なんか困ったことがあったら言えよ」
「ありがと。葉月と茉耶ちゃんがいれば、怖いものなしだ! 二人が友だちでよかった」
「……おう」
 葉月が照れくさそうに笑う。
 ねえ、葉月。わたしはウソをついたよ。これからも、いっぱいウソをつくと思う。だけど、「友だちでよかった」って言葉は本当だから。それは絶対、変わらないから。
 ピロロン♪
 ポケットの中のスマホが鳴る。周囲に先生がいないことを確認してから、そっと取り出す。
「お前、いつのまにスマホ買ってもらったんだよ?」
「九條 錬のマネージャーさんが持たせてくれたの」
 いつでも連絡をとれるようにって(貸して)くれたんだ。でも、メッセージは茨木さんからじゃない。
 これは……。
「どうした? なんか、手がふるえてるけど……」
「何でもひゃい!」
 かくすようにスマホをポケットに突っ込む。
 なぜか、走り出さずにはいられなかった。あわてて葉月が追いかけてくる。
「ひゃいって何だよ? どうしたんだよ?」
 ぎゅっと口を結んで、ただ首を横にふる。今なにかしゃべったら、それこそ顔がとけちゃうから。
 メッセージは、九條 錬から。
 そしてその内容は―。

【記者会見をがんばってくれたお礼がしたいんだ。今週の日曜日、デートしよ】

 これって、お仕事関係ないってことだよね?

 ありがとうございまあああああす!

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