【短編】伝説の執事様 〜恋に臆病なスーパー執事は、魔王討伐に行きたくない〜
『我への返事はないのか、勇者よ』
「焼き菓子もご用意いたしました」
「! いただくわ」

 それまで聖剣の呼びかけを気にしていたセルシアだが、アランのお菓子の一声でコロッとそちらに夢中になった。

「お口に合いますか?」
「ええ! アランの焼き菓子は頬が落ちるくらい美味ですもの」
「か、かわっ……ふぐっ!!」

 キツイ顔つきながらも優しく微笑んで焼き菓子を食べるセルシアのあまりの可愛さに、アランが地に崩れ落ちた。

「アラン!?」
『勇者よ、また発作か』

 呆れた口調の聖剣の言葉に、セルシアは慌てて椅子を立ち上がった。

「発作!? あなたどうして今まで黙っていたの!?」
「えっ、いや、これは病気では……」
『ある意味病気だろう』
「そんな、急いで医者に診てもらわないと!!」
『そうだ! その手の専門家に診てもらえ! その煩わしい病(恋の病)を相談して、サッサと告白して爆ぜろ!』
「だめよ、爆発しては!」
「ちちち違います、お嬢様! 私は至って健康体です!」
「なら、どうして倒れそうになったの?」
「これは……えっ……と。そ、そうです! 私は時折聖剣に魔力を吸われていて、それのせいなんです!」
『我に責任をなすりつけたな?』
「そ、そうなの? 大変だわ!」
『小娘よ、簡単に信じるでない』
「えっ? アランが嘘をつくわけないもの。ね?」
「……は、はい。お嬢様、私は魔力もかなりあるので、心配の必要はありませんよ……」
「ほんとう?」

 シルシアに覗き込まれたアランはまた胸を押さえそうになるが、ますますセルシアが心配しそうなのでグッと堪えた。

「ほ、本当です。私のことよりも、お茶が冷めてしまいます」
「お茶よりも私はあなたのことが……」
「……私は大丈夫ですから。お菓子もお嬢様のために心を込めてお作りしましたので、お召し上がって頂きたいのです」

 セルシアは不安そうにしていたが、アランの説得に負けて椅子に座り直した。

「あなたも一緒に食べない?」
「……しかし……」
「これは命令よ?」
「め、命令なら仕方ありません!」

 などと言いつつまんざらでもないアランは、セルシアと同じテーブルに着席した。
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