元体操のお兄さんとキャンプ場で過ごし、筋肉と優しさに包まれた日――。
 脚が長いバーベキューコンロの上に乗っている焼き網。そこには炭火で焼かれていて美味しそうな肉達が無造作に置かれている。

「肉だ! やった!」

 碧は焼肉を見て飛び跳ねた。

 お弁当と小さなペットボトルのお茶をふたつずつ袋から出すと、用意してくれた椅子にそれぞれ座った。その時、私はお弁当に卵焼きが入っていることに気がついた。

「あの、お兄さん、卵焼き食べます?」

 お兄さんは私のお弁当の卵焼きをチラ見する。

「いや、でも……いいんですか?」

 断られるかなと思いきや、卵焼きを受け取ってくれることになった。

「まだ私の割り箸、口つけてないのでこれ使ってお兄さんのお皿に乗せますね」
「ありがとうございます。実は卵焼き大好きで――」

 知ってます!と心の中で叫びながら私は立ち上がり、お兄さんのお皿に卵焼きを入れた。

「私のもいる?」
「いや、いいよ! 碧ちゃんには沢山食べて大きくなってほしいから、碧ちゃんが食べて?」
「うん、分かった! 私も卵焼き好きなんだよね」

 碧が聞くと、お兄さんは優しく断っていた。碧も卵焼きが好きなのにお兄さんにあげようとして優しい。

「碧、それ食べきれる?」
「多いかな?」

 お弁当を選ぶ時「ママとお揃いがいい」と言って、碧は私と同じ卵焼きやウインナー、そして漬物と鯖の入ったお弁当を選んだ。残したら私が食べようと思っていたけど肉もあるし、食べられないかも。

「もし食べきれなさそうだったら、その分自分のお皿に乗せてくれれば、何でも食べます」
「私も碧のまでは食べきれなさそうなので、ありがたいです! 碧、お米半分ぐらいお兄さんにあげたら、あとは食べれそう?」
「うん。食べれるよ」

 お兄さんのお皿に、碧のお弁当のお米を半分乗せた。

「お兄さん、無理して食べなくても大丈夫なので」
「無理はしないですよ。食べ物は全部、自分の筋肉になる予定なので」

 そう言いながらお兄さんは腕を曲げてムキムキポーズのサービスショットを見せてくれた。

 お兄さんからふたり分の紙皿を受け取ると、椅子に再び座る。

「そういえば、肉の中で苦手なのとかあります?」
「いいえ、ふたりともないです」
「良かった! じゃあ、お皿の上に豚と牛、両方乗っけますね」
「ありがとうございます」

 お兄さんはトングで肉を掴むと私達のお皿の上に肉を乗せてくれた。

「美味しい」と、肉を口にした碧は満足している様子。私も一口、食べてみる。

「美味しいです! 外で焼肉なんて久しぶりすぎて……こういうのも、良いですね!」
「ありがたい反応を……誘って良かった!」

 和気あいあいとした雰囲気で、私達はご飯タイムを過ごした。
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