元体操のお兄さんとキャンプ場で過ごし、筋肉と優しさに包まれた日――。
 碧と一緒に温泉を堪能した後、和室の休憩室へ行く。髪の毛が半乾きなお兄さんが、座ってスマホを見ていた。入口にある水をコップに入れてから中に入ると、お兄さんが私達の存在に気がついた。いつもと何かが違う、大人びたお兄さんの雰囲気。目が合うと、どきっと私の心臓が大きな音をだす。

「女性のところ、混んでました? こっちは数人しかいませんでした」
「私達のところも空いてました。お湯が何種類かあったから、全部碧と一緒にゆっくりまわれました」
「良かったですね! 碧ちゃん、温泉楽しかった? どのお湯が一番好きだった?」
「露天風呂がお湯の中いっぱい歩けたから楽しかったかな」

 露天風呂は誰も人がいなくて貸切状態だった。大人にとってはそんなに深くは感じないけれど、碧にしたら結構深くて、そして広く感じると思う。歩くだけで楽しくなるの、分かる気がする。

「お兄さんも露天風呂、いっぱい歩いて楽しかった。同じだね!」

 お、お兄さんも!?

「また行きたいな。お兄さんもまた一緒にキャンプと温泉に来ようね!」
「いいよ!」

 いいんですか?

 多分、社交辞令的な返事かな?
 だけど明るくそう返事をしてくれたことが嬉しかった。

 実は私も、今この時だけではなく、またお兄さんと一緒に過ごせたらいいなと思っていた。私の心の声を代わりに届けてくれた碧。よく言ってくれたね! ありがとうありがとう……と、心の中で何度も呟いた。

 話をしながら、三人で何度も微笑みあって――。

お兄さんと出会ったばかりだけど、この風景を周りが見たら、幸せな家族のような感じなのかな?って、なんだか心が弾む。
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