元体操のお兄さんとキャンプ場で過ごし、筋肉と優しさに包まれた日――。
 そんなこんなで、とうとう帰る時間。つまり、お兄さんとお別れしてしまう時間が来てしまった。お兄さんはテントを片付けてくれて、私と碧は他の荷物をまとめた。

「荷物、全部このキャリーカートに乗せてください」とお兄さんは、荷物を乗せてがらがらするやつを準備してくれた。

「こういうのあると、便利ですね」
「はい、キャンプ場でも借りられる場所はあるのですが、混み合ってるとなかなか借りられない時もあるので、あるとかなり楽で便利です」
「そうなんですね。次また行くことがあれば、買ってみようかな?」

 お兄さんは微笑みながら頷く。

 荷物を詰め込むと「碧ちゃんも乗る?」とお兄さんが言う。

「でも、荷物いっぱいで、私乗れないよ?」

「ここのお兄さんバスに!」

 お兄さんは片腕を広げてそう言った。
「私がキャリーカートを担当します」と言ってもお兄さんは私の話を聞かず。片腕で碧を抱っこし、もうひとつの手でキャリーカートを引っ張った。お兄さんはそれを軽々とやり遂げた。すごい力持ち。

「はい、碧ちゃん、到着です!」

 お兄さんは私の車の前に来ると、碧を降ろす。

「碧、先に車、乗ってていいよ! 抱っこするユニコーンと、ドリンクホルダーにお茶準備しといてもらっていい?」
「うん、分かった」
 碧は先に車の助手席に乗る。

 荷物を詰め込み終わると、車のドアを閉める。閉めた後、お兄さんが「してみます?」と上目遣いで私に訊いてきた。
「な、何をですか?」
「いや、さっき、ギュッとしてみたいって……」
「いや、あの……」

 しどろもどろしているとお兄さんは、しゃがみ出した。しゃがむとちょうど碧にも、誰にも見えない。

「はい、はい!……」

 お兄さん両手を広げだし、色んな声のトーンではいはい言っている。これは、飛び込むしか選択肢は考えられない。

 えい!と、私は勢いよくしゃがみ、彼に飛び込んだ。

 

 

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