元体操のお兄さんとキャンプ場で過ごし、筋肉と優しさに包まれた日――。
「ありがとうございます。本当に助かりました」
「いえいえ、自分は隣で過ごしてるんで、よろしくお願いします。そして何か困ったことがあれば、いつでも言ってください。キャンプは慣れているので!」

 キャンプは慣れてるって、沢山キャンプをしているのかな? お兄さんはアウトドアがとても似合うイメージだから、毎日キャンプしてるのとか想像できちゃう。

「分かりました。ありがとうございます。そしてこちらこそ、隣、よろしくお願いします!」

 私がお礼を言うと、すっとお兄さんはしゃがみ、立っている碧と同じ高さになって視線を合わせた。

「お兄さん、隣にいるから、よろしくね!」

 続けて碧にも話しかけるお兄さん。
 碧はにこっとして静かに頷いた。

 テレビの時と変わらない優しさ――。

「碧、荷物取りに行こうか?」

 今持ってきた、ふたつの寝袋と買い物袋をテントの中に入れて、テントの入口のファスナーの持ち手ふたつをダイヤル式のワイヤーロックで一緒に止め、テントが開かないようにすると、碧と一緒に車に向かう。

 なんとなく振り向くと、お兄さんも付いて来ていて、目が合った。

「あっ、自分も車に用事があって」
「そうなんですね」

 微笑み合うとお互いに自分の車の元へ。
 ボストンバックの肩紐を肩にかけ、重たいから更に両手で持ち、テントを立てた場所に戻ろうとした。ほんの少し歩いたところにお兄さんがいて「荷物を持ちますよ」と言い、持ってくれた。

 軽々と片手でバックを担ぐお兄さん。お兄さんは今、白い半袖Tシャツを着ていて、ふと、袖からはみ出る腕の筋肉が気になった。とにかくモリモリしていてすごい。

 ちょっと触れてみたくなる筋肉。
 
――本人を目の前に、触れたいだなんて。私ったら何を考えているの?

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