俺はこの幼なじみが嫌いだ
海(2)
「……ぉい……おい……おーい!」
「んっ……眩しっ」
目を開けると、前のシートが倒されており、スライドドアの奥から俺を呼ぶヒロの姿が見えた。
「柚着いたぞー」
「……早くない?」
今日の気温は33℃。
朝見ていたニュースによると、刺すような陽射しに、肌がじりじりと焼かれるような感覚らしい。
だから、可能ならもう少し、もう少しだけ、この涼しい車内にいたい。
「君ねぇ、2時間は寝てたぞ?
だ・か・ら、降りてこーい!」
「あっ、えっ、ちょっと……」
無理やり車外へ引っ張り出された俺。
「ゆ、夢……?」
「残念、これが現実なんだよな」
視界に映るのは、どこまでも無限に続く青い海。
「じゃあ、私たち着替えてくるから」
「行ってきまーす!」
「了解!」
なんだろう。
海を見ていると、悩みなんて忘れてしまいたくなる。
「綺麗……」
そんな海から、俺は目が離せなくなってしまった。
「はいはい、俺たちも着替えに行くよー!」
「おっけー!」
「くぅぅぅぅ、早く泳ぎてぇ!」
「俺ナンパしちゃおっかなぁ」
ヒロは、鈴木、佐藤、松永を連れ、更衣室へ向かった。
なぜ俺だけ呼ばれないのか。
大丈夫、安心して欲しい。
実は昨日、こんなやりとりがLIMEで行われていた。
ピロンッと着信音がなり、俺は携帯を手に取る。
「ヒロか」
『明日、柚は水着着てきた方がいいかも』
『分かった』
『更衣室まで結構距離ある』
『情報提供感謝』
『あと、ちゃんと起きろよ』
『うん』
流石はヒロ。
少しでも俺の体力を残そうと、こんな工夫をしてくれるなんて……。
ただ、1人残されたら残されたで、気まずいこともある。
「お兄ちゃん、ヒロ兄のお友達?」
「ん? そうだよー」
俺はヒロの妹に声をかけられた。
ってか、ヒロ兄って呼ばれてるのか。
なんか可愛いな。
「お兄ちゃん何歳?」
「僕はねぇ、16歳だよ」
この子は真由ちゃん。
ヒロの8つ下の妹だ。
「お兄ちゃんヒロ兄より歳上!」
「うん、そうだね。僕は4月生まれだから」
子供の相手なんてした事ないのに……これで合ってるかな。
「こーら、お兄さん困ってるでしょ。
ごめんなさいね」
「いえいえ、ちょうど暇してたので寧ろ感謝です」
こちらにいらっしゃる礼儀正しい美人さんは、ヒロのお母様だ。
「ママー!」
「はーい」
この方を一目見た瞬間、ヒロが生まれてきた理由が分かった。
だって、モデルしてますって言われたら納得しちゃいそうだもん。
それに……。
「柚さん!」
「はい?」
「今日は来てくれてありがとうございます!」
この子もいるし。
こちらにいらっしゃる同じく美人さんは、ヒロのもう1人の妹だ。
歳は確か、ヒロの1つ下だっけ。
「寧ろ連れてきてもらっちゃって、ありがとうございます」
「いえっ、全然大丈夫です……!
わ、私着替えてきますね!」
「はい。お気をつけて」
この子を見たのは、ヒロの家に初めて行った時だった。
「ヒロ、この写真の子誰?」
「あーそれ、俺の妹。可愛いだろ?」
「うん、すごく綺麗だと思う。モデルやってるとか?」
「いや、してないよ。でも、スカウトされたことはあるって言ってたような」
なんて会話をしていると、ドアが開いた。
「お兄ちゃん、お菓子とジュース持ってきたよ」
「おっ、ありがとー!」
そこにいたのは、写真の中にいた美人さん。
「貰うねー」
ヒロはお盆ごと受け取ると、テーブルの上に置いた。
「初めまして、柚です」
「初めまして……私は、ヒロの妹の……妹の……」
ふと目が合うと、なぜか彼女は黙ってしまった。
それに心做しか顔が赤くなっていた気がする。
「あ、あのー……」
「し、失礼しますっ!」
突然力強く閉められたドア。
「あーれー? さては柚、やっちまったな?」
なぜかヒロはニヤついている。
「えっ、俺なんか悪いことした? 今の短時間で怒らせちゃった?」
「なーんてな。別に気にしなくていいぞ。
それより、このゲームやろうぜ!」
「う、うん……」
人と接するのは難しい。
この時確か、そう思ったんだっけ。
「懐かしい」
「へぇ、そんなことがあったのか……」
「はい……って、ヒロのお父さん!?」
防潮堤に手を付き、俺の横で佇むヒロの父。
いつの間に……。
「君なんだろ? 柚くんってのは」
「はい、そうですけど……」
隣でアロハシャツが揺れている。
何とも男らしい。
「ほれっ、ジュースやるわ」
「おっとっと、ありがとうございます」
俺は早速、キンキンに冷えたオレンジジュースを1口。
うん、控えめに言って最高だ。
「ほんでな柚くん、うちの子と仲良くしてくれてほんとありがとうな」
「えっ?」
それ、完全に俺の父のセリフなんだけど。
「俺はてっきり、ヒロに友達出来ねぇんじゃねぇかと心配してたんだよ」
だからそれ、完全に俺の父のセリフなんだけど。
今も多分心配してるだろうし。
「だってあいつ、変だろ?」
「まぁ、そこは否定しないです」
あまりの話しやすさに、スラスラ言葉が出てくる。
恐るべきコミュ力だ。
「すーぐ階段で寝るし、盛り上げ上手だし」
「分かります分かります」
「でも、その癖大人数が苦手とか」
「分かります分かります……えっ?」
ヒロって、大人数苦手なの……?
じゃああの、体育祭の時の胴上げは一体……。
「だからよ、俺は1つアドバイスしたんだ」
「アドバイス、ですか?」
「そう。1人、親友を作れってな」
親友……か。
確かに、ヒロがいなければ俺は今頃、教室の置物になっていたことだろう。
「まぁそんな訳で柚くん、これからもヒロのことよろしくな」
そう言うと、ヒロの父は優しく笑った。
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
今日俺は、海に来てよかった。
まぁ、まだ泳いですらないんだけど。
俺は海が好きだ。
人の意外な一面を見せてくれる、そんな海が好きだ。
「んっ……眩しっ」
目を開けると、前のシートが倒されており、スライドドアの奥から俺を呼ぶヒロの姿が見えた。
「柚着いたぞー」
「……早くない?」
今日の気温は33℃。
朝見ていたニュースによると、刺すような陽射しに、肌がじりじりと焼かれるような感覚らしい。
だから、可能ならもう少し、もう少しだけ、この涼しい車内にいたい。
「君ねぇ、2時間は寝てたぞ?
だ・か・ら、降りてこーい!」
「あっ、えっ、ちょっと……」
無理やり車外へ引っ張り出された俺。
「ゆ、夢……?」
「残念、これが現実なんだよな」
視界に映るのは、どこまでも無限に続く青い海。
「じゃあ、私たち着替えてくるから」
「行ってきまーす!」
「了解!」
なんだろう。
海を見ていると、悩みなんて忘れてしまいたくなる。
「綺麗……」
そんな海から、俺は目が離せなくなってしまった。
「はいはい、俺たちも着替えに行くよー!」
「おっけー!」
「くぅぅぅぅ、早く泳ぎてぇ!」
「俺ナンパしちゃおっかなぁ」
ヒロは、鈴木、佐藤、松永を連れ、更衣室へ向かった。
なぜ俺だけ呼ばれないのか。
大丈夫、安心して欲しい。
実は昨日、こんなやりとりがLIMEで行われていた。
ピロンッと着信音がなり、俺は携帯を手に取る。
「ヒロか」
『明日、柚は水着着てきた方がいいかも』
『分かった』
『更衣室まで結構距離ある』
『情報提供感謝』
『あと、ちゃんと起きろよ』
『うん』
流石はヒロ。
少しでも俺の体力を残そうと、こんな工夫をしてくれるなんて……。
ただ、1人残されたら残されたで、気まずいこともある。
「お兄ちゃん、ヒロ兄のお友達?」
「ん? そうだよー」
俺はヒロの妹に声をかけられた。
ってか、ヒロ兄って呼ばれてるのか。
なんか可愛いな。
「お兄ちゃん何歳?」
「僕はねぇ、16歳だよ」
この子は真由ちゃん。
ヒロの8つ下の妹だ。
「お兄ちゃんヒロ兄より歳上!」
「うん、そうだね。僕は4月生まれだから」
子供の相手なんてした事ないのに……これで合ってるかな。
「こーら、お兄さん困ってるでしょ。
ごめんなさいね」
「いえいえ、ちょうど暇してたので寧ろ感謝です」
こちらにいらっしゃる礼儀正しい美人さんは、ヒロのお母様だ。
「ママー!」
「はーい」
この方を一目見た瞬間、ヒロが生まれてきた理由が分かった。
だって、モデルしてますって言われたら納得しちゃいそうだもん。
それに……。
「柚さん!」
「はい?」
「今日は来てくれてありがとうございます!」
この子もいるし。
こちらにいらっしゃる同じく美人さんは、ヒロのもう1人の妹だ。
歳は確か、ヒロの1つ下だっけ。
「寧ろ連れてきてもらっちゃって、ありがとうございます」
「いえっ、全然大丈夫です……!
わ、私着替えてきますね!」
「はい。お気をつけて」
この子を見たのは、ヒロの家に初めて行った時だった。
「ヒロ、この写真の子誰?」
「あーそれ、俺の妹。可愛いだろ?」
「うん、すごく綺麗だと思う。モデルやってるとか?」
「いや、してないよ。でも、スカウトされたことはあるって言ってたような」
なんて会話をしていると、ドアが開いた。
「お兄ちゃん、お菓子とジュース持ってきたよ」
「おっ、ありがとー!」
そこにいたのは、写真の中にいた美人さん。
「貰うねー」
ヒロはお盆ごと受け取ると、テーブルの上に置いた。
「初めまして、柚です」
「初めまして……私は、ヒロの妹の……妹の……」
ふと目が合うと、なぜか彼女は黙ってしまった。
それに心做しか顔が赤くなっていた気がする。
「あ、あのー……」
「し、失礼しますっ!」
突然力強く閉められたドア。
「あーれー? さては柚、やっちまったな?」
なぜかヒロはニヤついている。
「えっ、俺なんか悪いことした? 今の短時間で怒らせちゃった?」
「なーんてな。別に気にしなくていいぞ。
それより、このゲームやろうぜ!」
「う、うん……」
人と接するのは難しい。
この時確か、そう思ったんだっけ。
「懐かしい」
「へぇ、そんなことがあったのか……」
「はい……って、ヒロのお父さん!?」
防潮堤に手を付き、俺の横で佇むヒロの父。
いつの間に……。
「君なんだろ? 柚くんってのは」
「はい、そうですけど……」
隣でアロハシャツが揺れている。
何とも男らしい。
「ほれっ、ジュースやるわ」
「おっとっと、ありがとうございます」
俺は早速、キンキンに冷えたオレンジジュースを1口。
うん、控えめに言って最高だ。
「ほんでな柚くん、うちの子と仲良くしてくれてほんとありがとうな」
「えっ?」
それ、完全に俺の父のセリフなんだけど。
「俺はてっきり、ヒロに友達出来ねぇんじゃねぇかと心配してたんだよ」
だからそれ、完全に俺の父のセリフなんだけど。
今も多分心配してるだろうし。
「だってあいつ、変だろ?」
「まぁ、そこは否定しないです」
あまりの話しやすさに、スラスラ言葉が出てくる。
恐るべきコミュ力だ。
「すーぐ階段で寝るし、盛り上げ上手だし」
「分かります分かります」
「でも、その癖大人数が苦手とか」
「分かります分かります……えっ?」
ヒロって、大人数苦手なの……?
じゃああの、体育祭の時の胴上げは一体……。
「だからよ、俺は1つアドバイスしたんだ」
「アドバイス、ですか?」
「そう。1人、親友を作れってな」
親友……か。
確かに、ヒロがいなければ俺は今頃、教室の置物になっていたことだろう。
「まぁそんな訳で柚くん、これからもヒロのことよろしくな」
そう言うと、ヒロの父は優しく笑った。
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
今日俺は、海に来てよかった。
まぁ、まだ泳いですらないんだけど。
俺は海が好きだ。
人の意外な一面を見せてくれる、そんな海が好きだ。