俺はこの幼なじみが嫌いだ

再開と手紙

 夏の終わりを告げるように、少し涼しくなった朝の風が静かな住宅街を吹き抜ける。

 俺はいつも通り学校へと向かうが、心にはどこか落ち着かない感覚が残っていた。

「おっすー!」

 カラスが逃げるこのうるさい声……間違いない、ヒロだ。

「あっ、行方不明男」

「へっへっへ、すんませーん。
 っていうか、今凄く失礼なこと考えてなかった!?」

 よかった。
 いつも通りのヒロだ。

「ねぇっ!? ねぇっ!?」

「ごめんて」

 それに、俺も不思議と辛さはない。
 今回は課題を終わらせているし、何かを失った感覚もないからだろう。

「で、どこ行ってたの?」

「まぁまぁ、あとでちゃんと教えてやるからさ、とりあえず進もうぜ? なっ?」

「はいはい」

 ただ、1つ気になることがあるとすれば、夏休みから引き継いでしまったこのモヤモヤと、俺はこれからどう向き合っていけばいいのかということだ。

 あっ、そうか。

 まだ終わってなかったじゃん。
 夏休み課題。

「おっ、あゆちゃん! おっすー!」

 ・・・えっ。

「……んっ!? お、おはよう!?」

 (柚がいるううううううう!? 私まだ顔見れないってぇぇぇぇぇぇぇ!)

 あれ、いつものあゆじゃない。

「あー私ー、予定があったんだったぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「ちょっ、ちょっとあゆちゃん!?」

 明らかに様子のおかしいあゆは、校舎の中へと消えていった。

「ねぇ、柚……」

 やばっ、なんか聞かれるかも……!?

「俺嫌われちゃったかな!?」

 あー、ほんと助かるわー。

「可能性はゼロじゃないかも」

「そ、そんなぁ……」

 今の反応、やっぱりあゆはあの時俺に……って、そんな訳ないよな。

「いいから、とりあえず進もうぜ? なっ?」

「俺の真似すんなー!」

 俺とヒロは教室に向かった。

 うーん、エアコンの風気持ちいい……。

「みんなおっすー!」

「おはよ」

 エアコンのせいか、俺は自然と挨拶をしてしまった。
 普段なら絶対しないのに。

 まぁ、それもどうなんだって話なんだけど……。

「おいおい、柚に挨拶されちゃったよ!」

「はぁ? 今のは俺に対してだろ!」

「はぁ? な訳ねぇだろ!」

 おーい、喧嘩しないでー。

「柚おはよー!」

「柚くんおはよー!」

「お、おはよ」

 えっ、何この空気。

「ねぇ、ヒロたすけ……あっ」

 ふと横に目を向けると、そこには哀愁が漂っていた。

「ねぇ、柚……俺嫌われちゃったかな……」

 めんどくさいし、答えはこうだ。

「可能性はゼロじゃないかも」

「くっ、柚のバカーーーー!」

「えっ、なんで?」

 困り果てた俺の顔を見て、クラスのみんなは笑っている。

 いや、あのヒロのことだ。
 こうなることまでお見通しだったんだろう。

「ほんと敵わないな」

 そんなことを呟きながら、俺は席につく。

「ん? なにこれ」

 すると、机の中に一通の手紙を見つけた。

 誰からだろう……。
 洋封筒をくまなく見てみたが、名前の記述は見当たらない。

「こっわ」

 恐る恐る開けてみると、中には2枚の紙が入っていた。

 1枚目は手書きの文章で、2枚目は……下手くそな絵?

「えーなになに……『絵の場所に来たれ』。
 これ、分ける必要あった……?」

 どうやら、絵が指し示す場所は学校のどこからしい。
 まぁ、これが現実だなんて認めたくないけど……。

 俺の目に映るのは、13まで数字のある掛け時計。

「ありえない……」

「んー?」

 その時、横から金色の輝きが現れ、俺の視界を覆った。

「あゆ……何しに来た」

「ふぅーん、ラブレターでは無いようだ。
 それより、この位置から時計が見えるってことは、体育館倉庫じゃない?」

 えっ、あっ、本当だ。
 この前ふざけて名探偵とか言ったの、あながち間違いじゃなかったかも……。

「あゆさん、協力感謝します。それじゃあ私はこれで」

「ちょいちょいちょい、待て待て待て」

 すぐさま立ち去ろうとするも、あゆに腕を掴まれた俺は、情けなくその場に取り押さえられてしまった。

「そもそも、名前すら書かれてない手紙なんて怪しいでしょ!」

「ご、ごめんなさい……」

 しかも、まさかの説教タイム。

 教室の角に追い詰められる男子と、追い詰める女子。
 なんとまぁ目立つ展開だこと。

「で、でもさぁ、俺の机に入ってた訳だし……」

「でも、なぁに?」

「すいませんでした」

 あゆの圧力にやられ、俺の頭が勝手に下がる。
 これはもう、覇王色のなんちゃらと言っていい。

「まぁでも、気になるのは確かですし!
 仕方ありません、この私が協力してあげましょう!」

「はぁ、そんなことだと思ったよ」

「では、早速行きましょー!」

「はいはい」

 そう言って2枚の紙を手に取ったあゆは、俺の手を引き、教室を後にした。
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