雪あかりに照らされて

2-4 雪乃の作戦

 女子会を終えて、雪乃は翔子を見送りに出た。
 晩ご飯とは言ったけれど早くに始めたし、日没も遅いので外はまだ明るい。
「雪乃ちゃん、本当に……良いの?」
「良いって、なにが? 私は──別に、そんなつもりで行ったんじゃないし。仮に私が晴也さんのこと好きやとしても、関係が変わることはないし。私は大丈夫! それより、翔子ちゃん……、私にできることあったら、何でも言ってよ?」
 雪乃が笑うと、翔子は少し照れた。
 翔子から聞いたことはないけれど、雪乃は確信していた。
「クロンチョ──良い奴とは思うよ」
「やっぱり、バレてたかぁ……」
 雪乃が大輝の相手をしない理由。
 それは単に、うるさくて鬱陶しい、だけではなくて。
 もしかして翔子は大輝が好きなのではないかと、なんとなく思っていた。それが正解なら、応援をしてあげたかった。
「わかりやすいもん、翔子ちゃん。いつもあいつの話するし、話してることも多いし」
「でも、大輝君は、ユキちゃんのことばっかり」
 自分の事は気にしてくれない、と翔子は頬を膨らませる。
 あだ名だって雪乃はユキと名前なのに、翔子はスガッキーだ。
「たぶん、最初に仕事仲間として仲良くなったから、気付いてないんかな。他に女性俥夫いないし、仕事中は女の子っぽい服装してるわけでもないし……」
 お世辞抜きで翔子のほうが自分より可愛いと、雪乃は本当に思っていた。
 毎日たくさんの人と会っているからか、笑顔も自然に出る。
「あいつ、どうやったら気付くかなぁ。私に彼氏ができた設定にする?」
「彼氏? 晴也さん?」
「うん。もちろん、あいつにだけやけど。私が晴也さんの写真を持ってて、それをあいつが知って、落ち込んで、そこに翔子ちゃんが慰めに行く。完璧!」
 雪乃は笑いながら、翔子の背中を叩いた。
「完璧、って、そんな上手くいく?」
「さぁ?」
 ちょっとーどっちよー? と笑いながら、翔子も雪乃を叩いた。
 走りながら、叩きあいながら、二人で坂道を龍宮橋まで下りる。ちょうど事務所に戻ろうとしている人力車が中央橋のほうから来たけれど、それは大輝ではないようだ。
「おー翔子ちゃん、良いところにいた」
「お疲れー、なになに?」
「近々、みんなで飲みに行こうって話が出たんだけど、行く? 行くんなら、男臭くない店を選ぶらしいよ。あ、残念ながらユッキーは除外だけど」
 いいよいいよわかってますよ、と笑いながら、話が長くなりそうだったので雪乃は家に戻ることにした。誰が行くのか翔子が聞いていて、メンバーの中に大輝がいるとわかったとき、翔子の表情が変わったのを雪乃は見逃さなかった。
 翔子はもちろん行くようで、お店は選ばせて、と言っているのが遠くに聞こえた。

「どこ行ってたん?」
「うわっ、びっくりした、何してんの?」
 雪乃が家の前に着くと、なぜか大輝がいた。
「最近ユキ見かけんかったから、仕事帰りに寄った。女子会してたって?」
「そう。地元に帰ってたから、翔子ちゃんにお土産渡すついでに」
「え? 一人で? 何しに? 俺にはナシ?」
 大輝はしつこく聞いてくるけれど、雪乃は無視して玄関に向かう。
 翔子のことを話そうかと思ったけれど、それはやめておく。
「晴也さん──こないだうちに泊まりに来てた人に会いに行ってた。そうそう、マレーバクがあんたそっくりやったわ」
「え? バクって……アドベンチャーワールド行ったん? 男と? うわ……!」
 やはりショックを受けている大輝を置いて、雪乃はそのまま家の中に入った。
 一時間ほどしてから携帯が鳴って、彼からのLINEが届いた。白浜でのことをしつこく聞いてくるので、晴也と写った写真を送信した。
 再びショックを受けたのだろうか、大輝からのLINEはいったん途絶えた。
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