雪あかりに照らされて
第4章 未来へ
4-1 札幌にて
そして、再び春になり──。
雪乃と翔子は珍しく、札幌で会うことになった。その日、NORTH CANALに宿泊客はなく、高松家は用事で出てきていたため、翔子も休みだったので午後に待ち合わせた。両親は用事を済ませてから、先に帰宅した。
「ごめんね、わざわざこっちまで」
「ううん。私も久々に来たかったし、大丈夫だよ」
そう言う翔子が選んだカフェは、JRタワーの中。季節のフルーツをたっぷり使った、ボリュームのあるタルトがお勧めだ。オリジナルブレンドティーとのセットを注文し、近況を話しあった。
「実は近々、NORTH CANALを増築しようと思ってて」
「へぇー。それで今日は、家具とか見に来てたの?」
NORTH CANALが狭いというわけではないけれど。
口コミを見て泊まりに来る人が増え、予約日をずらすか断らなければならないことも増えた。せっかく選んでくれたのに、それでは申しわけない。
「あと、モモちゃんたち、次からは子供を連れて来ると思うから、子供が遊べるスペースも作る予定」
「それはいいね。他の家族連れにも良さそう」
幸い、NORTH CANALの隣は広い空き地だったので、そこを利用できることになった。今はない駐車場も、確保する予定だ。
「最初に建てたときはみんなに手伝ってもらったけど、今回はどうなるかなぁ」
「工事の間は、営業するの?」
「ううん。思い切って休むことにした」
その間は、宿を探している観光客たちには他のホテルを、と言ってから、話題は翔子のことになった。今日、会った時から、翔子はずっと笑顔なのが雪乃は気になっていた。
「何か良いことあった? さっきからすっごい笑ってるけど」
「うん……私、大輝君と、ちゃんと付き合うことになったよ」
だから笑顔だったのか、と雪乃は納得した。
静かな店内なので叫ぶわけにはいかず、思わずガッツポーズをした。
「それでそれで、いつから? あっちが言って来た?」
「いつだったかなぁ。三月だったかな? 大輝君、真剣な顔して……『俺、ユキのことは諦めた、やっぱ無理っぽい』だって」
「やっと諦めてくれたか……」
「でも、ユキちゃんも、良い話があるんじゃないの?」
翔子の問いかけに、雪乃は心当たりはなかった。
「大輝君……ユキちゃんが、晴也さんに抱きしめられてた、って凹んでたけど」
それを聞いて雪乃は、口に入れようとしていたケーキを思わず落としてしまった。
あの時の様子は、何も知らない人が見たら、恋人同士に見えたかもしれない。けれど実際は違うし、今もたまにLINEはしているけれど、関係は変わっていない。
夏鈴のことは、雪乃は両親と常連客にしか話していなかった。
「あれは、事情があって……。晴也さん、二年前に、小樽で婚約者を亡くしたらしくて……話を聞いてただけ。ただ辛かったんやと思う」
翔子は最初は、本当に? と疑っていたけれど、火事で、という話をすると、納得してくれた。あの火事のことは、まだ住民の記憶には新しいらしい。
「だから、クロンチョにも言っといて」
「わかった。……でも、ちょっとは気にしてるんじゃないかなぁ、ユキちゃんのこと」
もちろん、雪乃は晴也のことは好きではある。だから実家を訪ねたときも楽しく過ごせたし、抱きしめられたときも嫌ではなかった。
けれど彼には、婚約した人がいた。仲良くはなったけれど、それ以上踏み込む気にはなれなかった。
「ずっとこのまま。かな。それに、遠いし……」
北海道と和歌山では、距離がありすぎる。
飛行機を使っても片道六時間、会えても年に数回だ。
「遠距離恋愛は辛いよ。まぁ……近くにもいないけど」
誰か紹介しようか? 気になってる人はいる? と翔子は聞いたけれど、それには雪乃は乗り気ではなかった。もちろん、仲良くしている俥夫は何人かいるけれど。付き合いたいと思う人は、特にいないらしい。
雪乃と翔子は珍しく、札幌で会うことになった。その日、NORTH CANALに宿泊客はなく、高松家は用事で出てきていたため、翔子も休みだったので午後に待ち合わせた。両親は用事を済ませてから、先に帰宅した。
「ごめんね、わざわざこっちまで」
「ううん。私も久々に来たかったし、大丈夫だよ」
そう言う翔子が選んだカフェは、JRタワーの中。季節のフルーツをたっぷり使った、ボリュームのあるタルトがお勧めだ。オリジナルブレンドティーとのセットを注文し、近況を話しあった。
「実は近々、NORTH CANALを増築しようと思ってて」
「へぇー。それで今日は、家具とか見に来てたの?」
NORTH CANALが狭いというわけではないけれど。
口コミを見て泊まりに来る人が増え、予約日をずらすか断らなければならないことも増えた。せっかく選んでくれたのに、それでは申しわけない。
「あと、モモちゃんたち、次からは子供を連れて来ると思うから、子供が遊べるスペースも作る予定」
「それはいいね。他の家族連れにも良さそう」
幸い、NORTH CANALの隣は広い空き地だったので、そこを利用できることになった。今はない駐車場も、確保する予定だ。
「最初に建てたときはみんなに手伝ってもらったけど、今回はどうなるかなぁ」
「工事の間は、営業するの?」
「ううん。思い切って休むことにした」
その間は、宿を探している観光客たちには他のホテルを、と言ってから、話題は翔子のことになった。今日、会った時から、翔子はずっと笑顔なのが雪乃は気になっていた。
「何か良いことあった? さっきからすっごい笑ってるけど」
「うん……私、大輝君と、ちゃんと付き合うことになったよ」
だから笑顔だったのか、と雪乃は納得した。
静かな店内なので叫ぶわけにはいかず、思わずガッツポーズをした。
「それでそれで、いつから? あっちが言って来た?」
「いつだったかなぁ。三月だったかな? 大輝君、真剣な顔して……『俺、ユキのことは諦めた、やっぱ無理っぽい』だって」
「やっと諦めてくれたか……」
「でも、ユキちゃんも、良い話があるんじゃないの?」
翔子の問いかけに、雪乃は心当たりはなかった。
「大輝君……ユキちゃんが、晴也さんに抱きしめられてた、って凹んでたけど」
それを聞いて雪乃は、口に入れようとしていたケーキを思わず落としてしまった。
あの時の様子は、何も知らない人が見たら、恋人同士に見えたかもしれない。けれど実際は違うし、今もたまにLINEはしているけれど、関係は変わっていない。
夏鈴のことは、雪乃は両親と常連客にしか話していなかった。
「あれは、事情があって……。晴也さん、二年前に、小樽で婚約者を亡くしたらしくて……話を聞いてただけ。ただ辛かったんやと思う」
翔子は最初は、本当に? と疑っていたけれど、火事で、という話をすると、納得してくれた。あの火事のことは、まだ住民の記憶には新しいらしい。
「だから、クロンチョにも言っといて」
「わかった。……でも、ちょっとは気にしてるんじゃないかなぁ、ユキちゃんのこと」
もちろん、雪乃は晴也のことは好きではある。だから実家を訪ねたときも楽しく過ごせたし、抱きしめられたときも嫌ではなかった。
けれど彼には、婚約した人がいた。仲良くはなったけれど、それ以上踏み込む気にはなれなかった。
「ずっとこのまま。かな。それに、遠いし……」
北海道と和歌山では、距離がありすぎる。
飛行機を使っても片道六時間、会えても年に数回だ。
「遠距離恋愛は辛いよ。まぁ……近くにもいないけど」
誰か紹介しようか? 気になってる人はいる? と翔子は聞いたけれど、それには雪乃は乗り気ではなかった。もちろん、仲良くしている俥夫は何人かいるけれど。付き合いたいと思う人は、特にいないらしい。