雪あかりに照らされて
4-2 夏の予定 ─side 晴也─
四月、仕事を終えてスマートホンを見ると、久々に雪乃からLINEが届いていた。残業で遅くなった帰宅電車は、それほど混んでいないので座席は確保できた。
『こんばんは。今日、夏鈴さんのお墓に花を供えてくれてたのが誰かわかりました! あと、今年の夏、NORTH CANALを増築します。次に晴也さんが来るときには、広くなってる予定です』
どんな風になるんだろう、と想像しかけたのをやめて、文章の前半を改めて見た。
夏鈴の墓参りをしてくれてたのが誰だかわかった、って? 詳しいことは書いていなかったので、焦って『誰?』とだけで返信した。すぐに既読になった。
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雪乃が母親と一緒に夏鈴の墓参りに行くと、同じ方向に向かう一人の女性がいた。もしかして、と思っていると、夏鈴の墓の前で止まった。
「あの、すみません……親族の方ですか?」
律子が声をかけた。
「あ──いいえ。そうじゃないんです」
「失礼ですが、どちら様でしょうか」
女性は持っていた水と花を置いて、雪乃と律子に向き直った。
「私、小野寺と申します。二年前の火事で、昇悟が、息子が……夏鈴さんに助けられたんです。改めてお礼を言いたかったんですが、すぐに亡くなったと聞いて……。だから、せめてお墓参りだけでも、と思って、ときどき来てるんです」
そうでしたか、と言って、今度は律子と雪乃が名乗った。
夏鈴の婚約者が墓参りのときにNORTH CANALに泊まりに来てくれると言うと、とても会いたそうにしていた。
「息子さんは、お元気ですか?」
「はい。この春、小学校に入りました。連れてこようか迷ったんですが、まだわからないと思いますので……もう少し大きくなってから、話そうと思っています」
それから三人は一緒に夏鈴の墓参りをした。
小樽は坂が多いけれど、上ったところからの景色は最高だ。
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(そうか……あの時の男の子の母親か……)
晴也ももちろん、彼女に会いたいと思った。
墓参りのお礼を言いたいし、男の子のことも聞きたい。
『それより、NORTH CANAL増築って? その間は休業?』
『はい。部屋は使えるけど、工事でうるさいと思うので』
『そっか……それは残念……今年は夏に行こうと思ってたから』
『え? どれくらいですか?』
『一ヶ月かな。まだ決めてないけど』
雪乃は両親に相談に行ったのだろうか、返事が来るまで少し間があった。
『うるさいのと、あまりおもてなしできないのと(特にご飯)、掃除をお願いするかもしれないのと、そのへん我慢してもらえるなら泊まれるみたいです』
『大丈夫! 掃除でも買い物でも何でもするよ』
本当に、今回も、観光で行く予定ではなかった。泊めてもらえるなら、素泊まりでも構わないくらいだった。長期滞在になるので、宿の手伝いもする予定だった。
それから、雪乃に言っておきたいことも、一つできた。
LINEでも言えるけれど、直接言ったほうが良いだろう。他の宿泊客がいない期間なら、話せる時間も長いかもしれない。
『珍しいですね、夏に来るって』
『実は、前に言った、考えてることを、実行しようと思って』
ずっと前から、雪乃と出会う前から考えていたこと。
夏鈴と話していたこと──小樽への移住をすることに決めた。
今の生活に不満はない。けれど、夏鈴をひとり小樽に置いておくのは、可哀想な気がしていた。好きな土地ではあるけれど、知ってる人はいない。
移住するということは、住む場所も、仕事も、探さないといけない。
その間、NORTH CANALにお世話になるつもりだった。
雪乃には会ってから話すつもりにしていたが、ついでなので教えた。今の仕事は、七月中旬付で退職届を出した。
『たぶん、小樽より札幌のほうが仕事ありますよ』
そういえば雪乃の父親は、札幌でサラリーマンをしていると聞いた。もちろん、職種は特に拘りはないし、やりがいのある仕事なら低賃金でも良いと思っていた。
『こんばんは。今日、夏鈴さんのお墓に花を供えてくれてたのが誰かわかりました! あと、今年の夏、NORTH CANALを増築します。次に晴也さんが来るときには、広くなってる予定です』
どんな風になるんだろう、と想像しかけたのをやめて、文章の前半を改めて見た。
夏鈴の墓参りをしてくれてたのが誰だかわかった、って? 詳しいことは書いていなかったので、焦って『誰?』とだけで返信した。すぐに既読になった。
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雪乃が母親と一緒に夏鈴の墓参りに行くと、同じ方向に向かう一人の女性がいた。もしかして、と思っていると、夏鈴の墓の前で止まった。
「あの、すみません……親族の方ですか?」
律子が声をかけた。
「あ──いいえ。そうじゃないんです」
「失礼ですが、どちら様でしょうか」
女性は持っていた水と花を置いて、雪乃と律子に向き直った。
「私、小野寺と申します。二年前の火事で、昇悟が、息子が……夏鈴さんに助けられたんです。改めてお礼を言いたかったんですが、すぐに亡くなったと聞いて……。だから、せめてお墓参りだけでも、と思って、ときどき来てるんです」
そうでしたか、と言って、今度は律子と雪乃が名乗った。
夏鈴の婚約者が墓参りのときにNORTH CANALに泊まりに来てくれると言うと、とても会いたそうにしていた。
「息子さんは、お元気ですか?」
「はい。この春、小学校に入りました。連れてこようか迷ったんですが、まだわからないと思いますので……もう少し大きくなってから、話そうと思っています」
それから三人は一緒に夏鈴の墓参りをした。
小樽は坂が多いけれど、上ったところからの景色は最高だ。
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(そうか……あの時の男の子の母親か……)
晴也ももちろん、彼女に会いたいと思った。
墓参りのお礼を言いたいし、男の子のことも聞きたい。
『それより、NORTH CANAL増築って? その間は休業?』
『はい。部屋は使えるけど、工事でうるさいと思うので』
『そっか……それは残念……今年は夏に行こうと思ってたから』
『え? どれくらいですか?』
『一ヶ月かな。まだ決めてないけど』
雪乃は両親に相談に行ったのだろうか、返事が来るまで少し間があった。
『うるさいのと、あまりおもてなしできないのと(特にご飯)、掃除をお願いするかもしれないのと、そのへん我慢してもらえるなら泊まれるみたいです』
『大丈夫! 掃除でも買い物でも何でもするよ』
本当に、今回も、観光で行く予定ではなかった。泊めてもらえるなら、素泊まりでも構わないくらいだった。長期滞在になるので、宿の手伝いもする予定だった。
それから、雪乃に言っておきたいことも、一つできた。
LINEでも言えるけれど、直接言ったほうが良いだろう。他の宿泊客がいない期間なら、話せる時間も長いかもしれない。
『珍しいですね、夏に来るって』
『実は、前に言った、考えてることを、実行しようと思って』
ずっと前から、雪乃と出会う前から考えていたこと。
夏鈴と話していたこと──小樽への移住をすることに決めた。
今の生活に不満はない。けれど、夏鈴をひとり小樽に置いておくのは、可哀想な気がしていた。好きな土地ではあるけれど、知ってる人はいない。
移住するということは、住む場所も、仕事も、探さないといけない。
その間、NORTH CANALにお世話になるつもりだった。
雪乃には会ってから話すつもりにしていたが、ついでなので教えた。今の仕事は、七月中旬付で退職届を出した。
『たぶん、小樽より札幌のほうが仕事ありますよ』
そういえば雪乃の父親は、札幌でサラリーマンをしていると聞いた。もちろん、職種は特に拘りはないし、やりがいのある仕事なら低賃金でも良いと思っていた。