雪あかりに照らされて
4-6 同じ屋根の下
晴也の仕事と住居は無事に決まり、一旦実家に戻ることになった。
いつものように雪乃が駅まで見送ることになり、話をしながら歩いた。中央橋の交差点ではもれなく大輝が立っていたけれど、話しかけてはこなかった。黙ってじっと二人を見つめていた。
「もう、怖いなぁ、クロンチョ」
「ほんまに黒いよなぁ。夏に会ったのは初めてやけど……」
笑いながら坂を上り、晴也は一度だけ大輝を振り返った。少しぼやけてわかりにくかったけれど、敬礼しているように見えた。
小樽駅に一緒に入り、雪乃は晴也が切符を買うのを待った。
「次に会うときは、晴也さんは小樽市民なんですね」
「……かな? まだ住民票は移してないけど。そういうやつは、暮らしが落ち着いてからするつもり」
「ふぅん……あっ! てことは、もううちに泊まりに来ることはないんですね……」
そのことに気がついて、雪乃は寂しくなった。
毎年二月に晴也が泊まりに来ると、ずっと信じていた。
「うん……でも、近くに住んでるから」
いつでも会える、と言いかけて、晴也はそれをやめた。雪乃が本当に寂しそうで、一瞬、移住をやめようかと思った。
「会えるけど……」
NORTH CANALに泊まりに来てほしい。
常連客として、毎年来てほしい。
「僕はもう、こっちに住んでなくても、泊まりに行けない。自分が何を考えてんのか──誰が好きなのか、わかった。だから、行けない」
晴也が言葉を続けるほど、雪乃は悲しくなった。
もう彼は、泊まりに来てくれない。
好きな人のところに行きたいから。
それは雪乃のことではないらしい──。
晴也が夏に小樽に来た本当の理由は、雪乃の勘は外れた。聞きたくないには変わらないけれど、自分以外の人を選ぶとは、思っていなかった。
「やっぱり、晴也さんには……」
夏鈴しか見えていないのだろう。
「これ以上、我慢は無理かな……」
言いながら晴也は壁の時計を見た。列車の発車時刻まで、あと数分だった。
「周りの目が気になるから。好きな人に何も出来へん、って辛いよ。同じ屋根の下にいるのに」
「……え?」
晴也は笑っていた。
けれど雪乃がその意味に気付いたときにはもう、彼は改札の向こうに消えてしまっていた。
晴也はきっと交際を申し込んでくる。
彼が夏に小樽に来た本当の理由はこれだと、雪乃は信じていた。けれど、晴也が来たとき、雪乃は答えを出せていなかった。だから、話を聞きたくなくて、札幌に逃げていた。
雪乃が戻ったときには既に、両親にはそれを話していたはずだ。
けれど肝心の雪乃には何の話もなく──。
「あれ、ユキ、なに泣いてんの?」
中央橋まで戻ると、大輝が翔子と一緒に立っていた。涙はふいていたけれど、目が腫れていたのを大輝は見逃さなかった。
大輝は何か言いたそうにしていたけれど、雪乃は翔子に聞いてもらった。
「それ……絶対、ユキちゃんのことだよ」
晴也の言葉を思い出して、雪乃はまた涙を流していた。
彼が近いうちに小樽に来ることは決まっているけれど、雪乃は今すぐ会いたかった。会って、ちゃんと返事をしたかった。
「LINEで返事するのも嫌やし……あーあ……」
雪乃は数日前に、答えを出していた。
だから話しやすいように、一緒にいる時間を増やしたのに。
晴也はギリギリに言って、返事を聞かなかった。
「また先延ばしになったやんかぁ……。今度いつ会えるかなぁ」
あまり話を長引かせて仕事の邪魔をしては悪いので、雪乃はNORTH CANALに戻った。
リビングで待っていた両親から、晴也が話したことを聞いた。
いつものように雪乃が駅まで見送ることになり、話をしながら歩いた。中央橋の交差点ではもれなく大輝が立っていたけれど、話しかけてはこなかった。黙ってじっと二人を見つめていた。
「もう、怖いなぁ、クロンチョ」
「ほんまに黒いよなぁ。夏に会ったのは初めてやけど……」
笑いながら坂を上り、晴也は一度だけ大輝を振り返った。少しぼやけてわかりにくかったけれど、敬礼しているように見えた。
小樽駅に一緒に入り、雪乃は晴也が切符を買うのを待った。
「次に会うときは、晴也さんは小樽市民なんですね」
「……かな? まだ住民票は移してないけど。そういうやつは、暮らしが落ち着いてからするつもり」
「ふぅん……あっ! てことは、もううちに泊まりに来ることはないんですね……」
そのことに気がついて、雪乃は寂しくなった。
毎年二月に晴也が泊まりに来ると、ずっと信じていた。
「うん……でも、近くに住んでるから」
いつでも会える、と言いかけて、晴也はそれをやめた。雪乃が本当に寂しそうで、一瞬、移住をやめようかと思った。
「会えるけど……」
NORTH CANALに泊まりに来てほしい。
常連客として、毎年来てほしい。
「僕はもう、こっちに住んでなくても、泊まりに行けない。自分が何を考えてんのか──誰が好きなのか、わかった。だから、行けない」
晴也が言葉を続けるほど、雪乃は悲しくなった。
もう彼は、泊まりに来てくれない。
好きな人のところに行きたいから。
それは雪乃のことではないらしい──。
晴也が夏に小樽に来た本当の理由は、雪乃の勘は外れた。聞きたくないには変わらないけれど、自分以外の人を選ぶとは、思っていなかった。
「やっぱり、晴也さんには……」
夏鈴しか見えていないのだろう。
「これ以上、我慢は無理かな……」
言いながら晴也は壁の時計を見た。列車の発車時刻まで、あと数分だった。
「周りの目が気になるから。好きな人に何も出来へん、って辛いよ。同じ屋根の下にいるのに」
「……え?」
晴也は笑っていた。
けれど雪乃がその意味に気付いたときにはもう、彼は改札の向こうに消えてしまっていた。
晴也はきっと交際を申し込んでくる。
彼が夏に小樽に来た本当の理由はこれだと、雪乃は信じていた。けれど、晴也が来たとき、雪乃は答えを出せていなかった。だから、話を聞きたくなくて、札幌に逃げていた。
雪乃が戻ったときには既に、両親にはそれを話していたはずだ。
けれど肝心の雪乃には何の話もなく──。
「あれ、ユキ、なに泣いてんの?」
中央橋まで戻ると、大輝が翔子と一緒に立っていた。涙はふいていたけれど、目が腫れていたのを大輝は見逃さなかった。
大輝は何か言いたそうにしていたけれど、雪乃は翔子に聞いてもらった。
「それ……絶対、ユキちゃんのことだよ」
晴也の言葉を思い出して、雪乃はまた涙を流していた。
彼が近いうちに小樽に来ることは決まっているけれど、雪乃は今すぐ会いたかった。会って、ちゃんと返事をしたかった。
「LINEで返事するのも嫌やし……あーあ……」
雪乃は数日前に、答えを出していた。
だから話しやすいように、一緒にいる時間を増やしたのに。
晴也はギリギリに言って、返事を聞かなかった。
「また先延ばしになったやんかぁ……。今度いつ会えるかなぁ」
あまり話を長引かせて仕事の邪魔をしては悪いので、雪乃はNORTH CANALに戻った。
リビングで待っていた両親から、晴也が話したことを聞いた。