雪あかりに照らされて
1-5 常連客と青年
雪乃が晴也を連れてリビングに入ると、ジローはまだ他の三人からサルと呼ばれていた。雪乃は声には出して言っていないけれど、ジローはほんとうにサルによく似ている。
もちろん、人類は皆、サルが先祖なのだけれど。
「だから、バナナばっかり食ってねぇから!」
「でも、バナナ、美味しいよねー。お腹も膨らむし!」
いい加減に止めてくれ、と溜息をつくジローの目に、雪乃と晴也が映った。ジローはチャンスとばかりに手を叩き、他の三人を注目させた。
「ようこそNORTH CANALへ! 俺、ジローです。苗字は、ここではナシね。みんな友達、ってことで。こいつら俺の同僚で──」
ジローが仲間を順番に紹介して、
「それで、この子がユキちゃん。NORTH CANALの一人娘で、生まれは関西だけど、この辺りでは顔が知れてる」
なぜか雪乃のことも紹介した。
「はい……。その通りで……。この人たち、常連さんなんです」
雪乃が晴也に言うと、彼は「へぇ」と言った。
「さっきジローさんも言ってたけど、えーっと……セイヤさん、で良いですか?」
雪乃の問いかけに晴也は一瞬戸惑ったけれど、すぐに了承した。
NORTH CANALでは、高松家の三人は宿泊客の名前を把握しているけれど、複数組の宿泊客が一緒の時は名前で呼ぶようにしていた。
「セイヤさんは、小樽にはよく来るんですか?」
聞いたのはモモだった。
「はい、もう五年くらいは毎年来ています」
「そんなに? 今まではどこに泊まってたんですか?」
「今までは、駅の近くのホテルに泊まってたんですが……そこが閉鎖されたので他を探してて、噂でここを知ったので」
晴也の話に、雪乃は少し嬉しくなった。
もちろんそれは、彼に温かいお茶を運んできた律子も同じだ。
「選んでくれて、ありがとう。男性の一人旅って、この季節、珍しいよね。スキー? には、見えへんなぁ……」
晴也の荷物は少なくて、ノリアキやジローの半分ほどだった。
彼らは長期滞在なので、必然的に荷物は多くなってしまっているのだけど。
「いや、スキーとか、観光ではなくて……。友人の、ところに」
「だったら、友達のところに泊まるってのは?」
ノリアキが聞いた。
友人がいるのなら友人に泊めてもらえば、とは全員が思った。ノリアキが最初に口を開いたのは、モモが気になったからだ。晴也に最初に質問したとき、モモの目が少しだけ潤んでいるのを、ノリアキは見逃さなかった。
「それは、ちょっと、嫌かな……」
苦笑する晴也の前で、アカネがジローとノリアキを交互に見た。この二人は滞在中、同じ部屋で布団を並べている。
「確かに、男二人はむさ苦しいわねぇ。私はモモと一緒で良かったー」
喜ぶアカネに、雪乃は「男女一緒にはしませんよ」と笑い、隣の晴也を見た。周りに合わせて笑ってはいるけれど、表情はやっぱり硬い。
「それじゃ、挨拶はこれくらいで。晴也さん、部屋に案内しますね」
「ああ、はい……」
雪乃は晴也を連れてリビングを出た。
「お疲れなのに、すみません、賑やかな人たちで」
晴也をリビングに入れたことを、雪乃は後悔していた。
常連客たちに晴也を紹介したかったけれど、それ以上に晴也のことが心配だった。一人で泊まりに来る理由はなんとなくしっくりこないし、旅の疲れというより、精神的に疲れているように見えた。
「いえ、気にしないでください。ここが評判なのが、なんとなくわかりました」
晴也は少し笑ったけれど、やはりそれは楽しい顔ではない。
「ありがとうございます。今日はゆっくり休んでくださいね」
晴也が部屋に入ったのを確認してから、雪乃はリビングに戻った。常連客たちは外食をするそうで、四人仲良く出かけて行った。
もちろん、人類は皆、サルが先祖なのだけれど。
「だから、バナナばっかり食ってねぇから!」
「でも、バナナ、美味しいよねー。お腹も膨らむし!」
いい加減に止めてくれ、と溜息をつくジローの目に、雪乃と晴也が映った。ジローはチャンスとばかりに手を叩き、他の三人を注目させた。
「ようこそNORTH CANALへ! 俺、ジローです。苗字は、ここではナシね。みんな友達、ってことで。こいつら俺の同僚で──」
ジローが仲間を順番に紹介して、
「それで、この子がユキちゃん。NORTH CANALの一人娘で、生まれは関西だけど、この辺りでは顔が知れてる」
なぜか雪乃のことも紹介した。
「はい……。その通りで……。この人たち、常連さんなんです」
雪乃が晴也に言うと、彼は「へぇ」と言った。
「さっきジローさんも言ってたけど、えーっと……セイヤさん、で良いですか?」
雪乃の問いかけに晴也は一瞬戸惑ったけれど、すぐに了承した。
NORTH CANALでは、高松家の三人は宿泊客の名前を把握しているけれど、複数組の宿泊客が一緒の時は名前で呼ぶようにしていた。
「セイヤさんは、小樽にはよく来るんですか?」
聞いたのはモモだった。
「はい、もう五年くらいは毎年来ています」
「そんなに? 今まではどこに泊まってたんですか?」
「今までは、駅の近くのホテルに泊まってたんですが……そこが閉鎖されたので他を探してて、噂でここを知ったので」
晴也の話に、雪乃は少し嬉しくなった。
もちろんそれは、彼に温かいお茶を運んできた律子も同じだ。
「選んでくれて、ありがとう。男性の一人旅って、この季節、珍しいよね。スキー? には、見えへんなぁ……」
晴也の荷物は少なくて、ノリアキやジローの半分ほどだった。
彼らは長期滞在なので、必然的に荷物は多くなってしまっているのだけど。
「いや、スキーとか、観光ではなくて……。友人の、ところに」
「だったら、友達のところに泊まるってのは?」
ノリアキが聞いた。
友人がいるのなら友人に泊めてもらえば、とは全員が思った。ノリアキが最初に口を開いたのは、モモが気になったからだ。晴也に最初に質問したとき、モモの目が少しだけ潤んでいるのを、ノリアキは見逃さなかった。
「それは、ちょっと、嫌かな……」
苦笑する晴也の前で、アカネがジローとノリアキを交互に見た。この二人は滞在中、同じ部屋で布団を並べている。
「確かに、男二人はむさ苦しいわねぇ。私はモモと一緒で良かったー」
喜ぶアカネに、雪乃は「男女一緒にはしませんよ」と笑い、隣の晴也を見た。周りに合わせて笑ってはいるけれど、表情はやっぱり硬い。
「それじゃ、挨拶はこれくらいで。晴也さん、部屋に案内しますね」
「ああ、はい……」
雪乃は晴也を連れてリビングを出た。
「お疲れなのに、すみません、賑やかな人たちで」
晴也をリビングに入れたことを、雪乃は後悔していた。
常連客たちに晴也を紹介したかったけれど、それ以上に晴也のことが心配だった。一人で泊まりに来る理由はなんとなくしっくりこないし、旅の疲れというより、精神的に疲れているように見えた。
「いえ、気にしないでください。ここが評判なのが、なんとなくわかりました」
晴也は少し笑ったけれど、やはりそれは楽しい顔ではない。
「ありがとうございます。今日はゆっくり休んでくださいね」
晴也が部屋に入ったのを確認してから、雪乃はリビングに戻った。常連客たちは外食をするそうで、四人仲良く出かけて行った。