嫌い嫌いも、好きのうち

第3話

それからというものの、雪人は昼休みだけでなく、
休み時間の度にクラスを覗きにやって来る。
雪人とは学年が違うので、教室の階数が異なり、
毎度クラスに来る度に、執事としての執念を感じさせる。
最初は女子達の視線も怖かったが、雪人が堂々と幼馴染み宣言してくれたおかげで、今ではそんなに視線も怖くない。

今日は四限目に体育があり、雪人を待たせないよう、
凜子は教室に急いで戻っている最中だ。
しかし、先に教室に着いたのは雪人の方だった。

「あのー、すみません。凜子先輩はどちらにいらっしゃいますか?」

雪人が声を掛けたのは、周藤夏瀬(なつせ)
夏瀬は雪人に声を掛けられ、購買に向かおうとしていた足を止めた。

「四限目体育だったから、まだ着替えてるんじゃねぇかな?」

「そういえば、体育でしたか。それなら、少しこの辺で待たせていただきますね」

「そういえばって…まるで俺達のクラスの時間割を知っているようかの口振りだな」

「そりゃあ把握してますよ、時間割くらい」

「はぁ…どんだけアイツのこと好きなんだよ。お前と天宮ってどういう関係なの?」

夏瀬は二人の関係を未だに知らないのか、不思議そうに雪人を見つめていた。
雪人もその回答をするのが未だに嬉しいのか、キメ顔で答える。

「幼馴染みです、年は違いますが!」

「幼馴染み……?」

幼馴染みという単語を聞いて、夏瀬は不思議そうに首を傾げる。
そんなタイミングで、凜子が教室に戻ってきた。

「アンタ来てたのね…。四限目は体育だから、先に空き教室に行っててって言ったのに」

「いや、何かあったらいけないから迎えに行くって言い返したよ!」

雪人の返事に、凜子は呆れたように溜め息をつく。
そんな彼の隣に、夏瀬がいることが凜子は気になった。

「あの、何で周藤くんが…?」

「ああ、いや。ちょっと彼と立ち話をしてて。それより、ちょっと気になることがあるんだけど」

「なに?」

「後輩くんが天宮とは幼馴染みの関係って言ってたんだけど、どういうこと?」

夏瀬の疑問に、凜子の代わりに雪人がムッとしながら答える。

「どうって、そのまんまの意味ですよ」

「いや、俺と天宮は幼稚園の時から高校までずっと同じ学校だったけど、こんな奴見た事ないぞ」

「それは……。ていうか、もしかして、凜子先輩と彼って、幼馴染み……?」

「んー、まぁ、そういうことだな」

頷く夏瀬に、雪人は何処か悔しく思うも、悟られないように気丈に振る舞う。

「じゃ、じゃあ、幼馴染み先輩!凜子先輩借りますね!」

「借りるも何も、好きにしろよ」

”人を物みたいに扱うな”と怒る凜子に、雪人はその場から逃げるように凜子の背中を押しながら、廊下を走り去った。
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