訳あり王子の守護聖女
「今日が貴女と過ごす最後の夜になるから、二人きりでお喋りがしたいの。ウィアネの花がちょうど見ごろだから一緒に見に行きましょう」とローザ様に誘われて、私たちはエレスト神殿にある転送魔法陣――『瞬きの扉』を使い、知る人ぞ知る花畑へ行きました。

 隣国アンベリスとの国境である山の中腹で淡い光を放ちながら咲き誇るウィアネの花は実に見事で美しく、私はローザ様と花を愛で、思う存分に語り合いました。

 そしてローザ様に誘われるまま崖縁へ行き、夜空に浮かぶ丸い月を眺めていると。

 どん、と背中を押され――そのまま私は真っ逆さまに転落しました。




 ――人は死ぬ間際、これまでの人生を振り返ると聞くけれど、本当にそうだったらしい。

 意識を失っている間、失踪した母に手紙を書く夢を見た。

 自分を捨てた母のことはもうなんとも思ってなかったはずなのに、死に際に思い出すなんて、心の奥底ではやっぱり寂しかったんだろうか。

 姉と慕った人には崖から突き落とされたしね。

 私は『家族だと思った人』から裏切られる運命の星の下にでも生まれたんだろうか?
< 3 / 224 >

この作品をシェア

pagetop