訳あり王子の守護聖女
「……必要ありません」
 一瞬だけ、逡巡するような間を置いてから、ルカ様ははっきりそう言って私を見た。

「考え直せ。王宮で暮らしたいと言っていただろう。それなら、王宮での立場や将来のことを考えても、殿下の守護聖女となるべきだ。次期国王となる殿下をお守りすることは、この国を守ることにも繋がる。俺のことなど守る必要はない」

 その言葉を聞いた瞬間、私は雪を思い出した。
 ルカ様と出会った日、空から降っていた白。

 死んでも構わない、そう言い放ったあのときといまのルカ様は同じ目をしていた。

 ――どうしてそんなことを言うの。
 まるで、自分には何の価値もないと思っているかのような、悲しい台詞を。

「ルカも賛成している。これで文句はないな?」
 勝ち誇ったような顔でギムレット様が笑った。

「私の宮に至急部屋を用意させよう。そうだな、明日の昼には迎えを《《寄越す》》」
 その言葉を聞いた瞬間、膨れ上がった感情が爆発した。

 ――ルカ様はそんなこと言わない。

 ルカ様は自ら迎えに来てくれた。
 傷だらけになって、必死に私を抱き上げてくれた。

 違う。
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