訳あり王子の守護聖女
 手の甲で垂れた血を拭い、地面に両手をついて上体を起こす。

「ロスタリア帝国で……自律型魔導兵器に誤射されたときは、もっと痛かったっ……! 頑張れステラ、気合と根性があれば、大抵のことは、なんとか、なるっ……!!」

 両手と左足を使って這うように移動し、崖に背中を預けて座り――そこまでが限界だった。

 ……もう無理。

 どんなに頑張ってもこれ以上身体が動こうとしない。
 座っているだけで精いっぱいで、気を抜くと倒れてしまいそうだった。

 血が足りないのか、視界が暗い。
 頬を撫でる夜風がやたら冷たく感じる。

 ――そうだ、指輪は無事かな。

 私はずきずきと痛む傷だらけの右腕を動かして、服の襟元に手を突っ込み、黒い紐の先にある指輪を引っ張り上げた。

 良かった、ちゃんとあった。

 赤い魔石が象嵌されたこの指輪は「ルカ」と名乗った隣国アンベリスの騎士が助けて貰った礼に、とくれたものだ。

 隣国……いや、国境である山から転落したのだから、もうここはアンベリス王国領内か。

 ルカは今頃どうしているかな。
 夜も遅いし、寝てるかな――あれ?
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