訳あり王子の守護聖女
 人の良さそうな柔和な微笑みを浮かべたこの男は父上の弟であり、私にとっては叔父にあたる。会議には彼の息子であるトーマス・ネルバ侯爵も出席していた。

「昨日は遅くまで本を読んでいたもので……以後気をつけます」
 言いながら、私は速やかに近づいてきた女性の文官から議事録を受け取った。

「ありがとう」
 微笑むと、彼女は頬を赤らめて頭を下げ、自分の席へと戻っていった。

「では次の議題ですが、王都付近に出没する山賊とその対処について――」
 アドルフの声を聞きながら、文官が書いた美しい文字にざっと目を通す。

『西の神殿に所属する聖女や神殿騎士の奮闘虚しく、ディエン村に発生した瘴気は日々その勢いを増して噴き上がり、魔物による被害も拡大している。そのため、王の代理の「目」として第三王子ルカを派遣し、現場からの報告に応じた増援部隊を向かわせることとする』

 議事録の中に書かれていたその文章を読んで、暗澹たる気持ちになった。

 当然、ルカの役割は視察だけに留まらず、戦闘要員として働かされるのだろう。
 いつもこうだ。
 何かと理由をつけて、ルカは死地に送られる。
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