訳あり王子の守護聖女
 私は黙している父上に顔を向けた。

「まあ待て。事の詳細もわからないというのに、そう焦るものではないだろう。騎士団を動かすというならば視察は必要だ」
 悠然とそう言ったのはテーブルを挟んで向かいにいる兄上だ。

「視察が必要ならば偵察兵に行かせれば良いでしょう。何故ルカに行かせるのですか」
「国の一大事だと言ったのはお前だろう。それこそ王子が行かなくてどうするのだ。しかし私とお前には公務がある。となれば、適当なのは暇を持て余しているルカしかいないな」
「――~~~」
 暇を持て余しているなどと、よく言うものだ。
 ルカに『何もさせない』のは他ならぬ兄上たちだというのに。

 歯噛みしていると、兄上は父上に顔を向けた。

「私たちが議論したところで詮無いこと。いかがいたしますか、陛下」
「ルカを視察に向かわせる」
 何の感情も窺わせない瞳で、父上は淡々とそう言った。

「陛下! 瘴気に侵された地にルカを向かわせるなど、危険すぎます! 万が一のことがあったらどうするのですか!?」
「ステラはルカの守護聖女となったのだろう? ギムレットの誘いを蹴ってな」
 父上の発言に廷臣たちがざわめいた。

「あの娘、王太子の誘いを断ったのか……」
「なんと無礼な……」
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